小説「人魚を祀る者たち」ー4
「ああ、荻野さんですね! お待ちしておりました、どうぞこちらへ!」
煩わしいことに、方向音痴だという教授に宿までの道案内までさせられてしまった。出迎えたのは島にある唯一の民宿の主人、高槻(たかつき)孔(こう)明(めい)である。名前だけで父親が大の三国志好きだったことがわかるその人は笑顔を絶やさない豪快な男で、胡麻塩のような顎鬚と綺麗に剃った頭、これでもかという位膨れた大きな腹が特徴だ。彼は雄二朗さんの悪友で、鮪の解体を得意とする元漁師。腰を痛めて現役を引退し、今では一人前の