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サイコの鶏唐 (毎週ショートショートnote)

大きなミスをして叱られ、私の足取りは重かった。月のない夜だった。

ふと気づくと、目の前に小さな無人販売店があった。ガラス扉には店名と「揚げたて鶏唐」――私の大好物だ。気持ちが少し明るくなる。

扉に手を伸ばし、ギョッとして自分の右手の甲を見つめた。いつのまにか黒い文字が書かれている。

    食うな

当然、自分で書いた覚えはない。
薄気味悪さを感じながらも、香ばしい匂いに抗えず、私は店に入った。

商品棚には容器に詰められた唐揚げが並んでいた。どれも輝くような狐色だ。
手前のひとつを手に取り、蓋を開けた。揚げたての香りが立ち上る。
こらえきれず、手掴みで噛りついた。肉汁と脂が一気に口の中に溢れて、

あっっつ!あちあち!火傷するわー!!
気づくと、あたしは自分の店で自分の鶏唐を呑み込んでた。あーもう、また商品を無駄にしちゃったよ!

まったく、あいつは何度言い聞かせてもここがあたしの、自分の店だってことを忘れてしまう。
昨日も店の鶏唐ぜんぶ食べて、脳内会議であたしにがっつり怒られたのに。
このままじゃ自分のせいで店潰れて、路頭に迷って死ぬわ。その前にあたしが激太る。
はぁー仕方ない、こっち側にも書いとこ!

満月の夜だった。
ふと気づくと、私は小さな無人販売店の前に立っていた。ガラス扉に手を伸ばすと、左右の手の甲には黒い文字が――

    死ぬ    食うな   


(566文字)


毎週ショートショートnote 参加。
はじめて裏お題に挑戦しました。
「サイコ」は多重人格の意味合いもあるようなので、こんな感じに…。
(二人しか出てないけど)
さすが裏お題は手強くて、大幅に文字数オーバーです。難しいいい。


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