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愛は祈りだ。「好き好き大好き超愛してる」レビュー

定期的に読み返している小説がある。
「好き好き大好き超愛してる」

この小説は冒頭の文章が神がかり的に美しい。

愛は祈りだ。僕は祈る。
僕の好きな人たちに皆そろって幸せになってほしい。
それぞれの願いを叶えてほしい。

暖かい場所で、あるいは涼しい場所で、それぞれの好きな人たちに囲まれて楽しく暮らしてほしい。
最大の幸福が空から皆に降り注ぐといい。

僕は世界中のすべての人が好きだ。名前を知ってる人、知らない人、これから知ることになる人、これからも知らずに終わる人、そういう人たちを皆愛している。
なぜならうまくすれば僕とそういう人たちはとても仲良くなれるし、そういう可能性があるということで、僕にとっては皆を愛するのは十分なのだ。

世界のすべての人々、皆の持つ僕との違いなんてもちろん僕はかまわない。人は違って当然だ。皆の欠点や失策や間違いについてすら僕は別にどうでもいい。
何かの偶然で知り合いになれる、ひょっとしたら友達になれる、もしかするとお互いにとても大事な存在になれる、そういう可能性があるということで、僕は僕以外の人全員のことが好きなのだ。
一人一人、知り合えばさらに、個別に愛することができる。僕たちはたまたまお互いのことを知らないけれど、知り合ったら、うまくすれば、もしかすると、さらに深く強く愛し合えるのだ。
僕はだから、皆のために祈る。祈りはそのまま愛なのだ。


この小説を初めて読んだのはたぶん10年くらい前。
当時私はとても悩んでいた。

仕事も恋愛もうまくいかなくて、負のスパイラルに陥っていた。

ネガティブ沼へ両足が浸かり始めた頃に、Amazonのオススメで出会ったこの本。

ラノベみたいなチャラい表紙だけど、何か気になって買ってみて、ページをめくって、上の冒頭の文章を読んで号泣した。

このページからあふれでる愛が私にも伝染した。

あぁ…私は本当はこんなふうに人を愛したかったんだ。

この世界の色んな人、共通点がある人、ない人、違いがある人、気の合わない人、関わりたくない人、どーでもいい人、みんなひっくるめて、幸せになってほしいと思ってるんだ。

こんな愛の人にはとてもなれないけど、どうやったらなれるのかもわからないけど、でも本当はこんなふうに誰かと愛を交わしたかったんだ。

読みながらそんなことを思って、涙があふれてきたのを覚えている。

あれから10年たって、今も色んなことに悩んだりはするけれど、でもやっぱり自分が生きる上で、他者とこの世界で生きる上で、とっても大切にしている価値観がここに刻まれているなぁと思う。

この美しい文章は、色んなことがあってもこんなに世界は愛なんだよって教えてくれてる気がする。

ちなみにこの小説は、芥川賞候補にもなった。
推している選考委員もいる一方で、稚拙でストーリも支離滅裂と、賛否両論だったらしい。

たしかにこの小説は読みにくい。

難病を患った女の子とその恋人を軸にしたストーリーなのだけど、いきなり天井を歩く女の子が出てきたり、フック船長みたいなキャラが出てきたり、SFと現実の垣根が曖昧で(そこが素敵なんだけれど)、意味のわからない部分も多い。

でもそれ以上にとてつもなくエネルギーに溢れた小説で、冒頭の文章以外にもグサっとくるフレーズが多く、理解を超えて心に響くものがたくさんある。
ふとした時に手にとって読み返したくなる本なのだ。

合う合わないが別れる本なので安易にオススメできないけど、だからこそ自分にとって特別な本になっている。



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