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しあわせの香り

近頃、娘がとてつもなくかわいい。

というだけの、おもしろくもなんともない、お話。

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うちの娘はわりと早い段階からおしゃべりで、歩くより先にペラペラといろんなことをしゃべっていた。

私もそうだったらしいし、うちの母もほっといてもひとりでしゃべっているタイプだから、これはきっと母方の遺伝だろう。

身体が小柄で運動能力は同級生に比べると低いのに、口だけは立派に一人前で、しかも内弁慶だった娘は、幼い頃はとにかく可愛げがなかった。

少なくとも私にとっては。


イヤイヤ期の娘については以前にも書いたことがあるが、それはまあ本当に、なかなかひどかった。

外では言いたいことが言えず、もじもじと私のスカートの後ろに隠れて人見知りをしているくせに、家に帰るとその反動なのか、ささいなことでかんしゃくを起こし、身近な人やモノに当たり散らし、ストレスを発散させる。

母親なんだし大人なんだし、と最初のうちは優しく対応している余裕があるのだけれど、あまりにも理不尽な要求や偉そうな態度に、そのうち私も怒りを覚えて本気で叱ることになるのだが、娘はそんなことには全くめげず、さらに言い返してくるため双方ヒートアップして大ゲンカになることがよくあった。

お出かけに連れ出した時なんかはさらに顕著で、活動や移動などの時間経過とともにみるみる体力を奪われ、イライラしだすと娘はもう、止まらない。お友達を待たせてようが、人が見ていようが、お構いなしに突然爆発してギャーギャーとわめき出す。

とにかく私に対してアピールしたい娘に何を言っても火に油を注ぐだけなので、仲の良いママ友が見かねて、娘の手を引きその場を離れ、なにやらささやいて手に一粒のお菓子を握らせ、ようやく落ち着いてクールダウンして目的地へ向かう、なんて場面が何度もあった。


単に私の器が小さすぎただけなのかもしれないし、気持ちをうまく処理できない娘とそれを彼女の求める方法で受け止めきれない私の歯車がうまく噛み合わなかったのだろうが、とにかくしんどい日々がずっと続いた。

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ここ半年くらいですっかり背も伸びて急に大人びた娘は、街中でだだをこねている小さい子を見ると「ママ、あの子昔のあたしみたいだねぇ。てか、あたしもっとギャーギャー言ってたよねぇ。あれはホントひどかった!」などと、冷静に自分の過去を振り返って分析するまでに成長した。

娘は自分でその頃のことを『恐竜時代』と呼んでいて(笑)、お風呂で泡タイプのボデイーソープをチョンチョンチョンと腕に等間隔でとげのようにつけて「みてみてー!恐竜○○参上ー♪(○は娘の名前)」などとふざけている姿を見ると、あの頃あんなにも腹立たしく、可愛げのかけらもない!と娘に対して憤慨していた自分に「そのうちちゃんと落ち着くから大丈夫、大丈夫。」と言ってあげたくなる。


大人顔負けの悟ったような発言をするわりには、まだまだ幼くママ愛が深すぎる娘は『ママとギューし隊』と称して、家にいるとしょっちゅう私のところへ行進してくる。

しばらく半ば無理やりのハグを楽しんだのち、「はー、ママとギューしたら充電満タンになったわー♡」とかなんとかいいながら、また自分の部屋へ戻っていく娘を見ながら、自分のこどもの頃はこんなに素直に母親に好きだと表現できなかったなぁ、この子はすごいなぁと、心から愛おしく思える。

こんなにストレートに誰かに愛情を伝えることができるなんて、持って生まれた才能といってもいいのではないだろうか。いついかなる時も無意識に最適解を探して、自分の気持ちや感情をついつい後回しにしてきた私にとって、それはまぶしいばかりのきらめきに見える。この素直さをいつまでもなくしてほしくない。

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変なところばかり私にそっくりで、やっぱり人一倍食いしん坊の娘は、お気に入りのパン屋さんで焼きあがってきたばかりの食パンを見ると、いつも「食パンの枕があったらいいと思わない!?それか、ふかふかの食パンをお布団にして、そこに寝るのが夢だよー(≧▽≦)」などといつも言っている。

そんな娘のささやかな夢は、焼きたての食パンを一斤まるごと!抱えて丸かじりすること。

先日、立ち寄ったパン屋さんでまさに理想の焼き具合の一本を手に入れ、あまりにキラキラした瞳で「ママー、お願い(≧▽≦)」というのでつい根負けして、その夢を叶えることにした。

自分の顔より大きな山食を抱えて、角っこからかぶりつく娘。

無言で頬張ったあと、本当に満足そうな、とろけるような満面の笑みを見ながら、私の心も満たされた。


夢が叶って、良かったね。この程度の夢なら、いくらでも叶えてあげられるよ。

いつか自分で自分の夢を叶えられるようになるまで、もう少し一緒に楽しく過ごそうね。


パン屋さんからの帰り道、私たちはふたりで顔を見合わせながら、車中に広がる食パンの香りを「はー、しあわせ(≧▽≦)しあわせの香りだねぇ♡」と、胸いっぱい吸い込んだ。


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