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デザイナーの責任は、「納品」すれば終わるのか

私は、デザイナーがもっと倫理観をもち、「納品する」までを責任範囲とする限定的かつ商業的なデザインではなく、自分たちが生み出したものがどのように影響するか捉え、倫理的に意思決定のできるデザイナーが増えてほしいと願っています。

一部、このテーマについて昨年10月末に、東京ミッドタウンで開催された「DESIGN TOUCH Conference」でお話しさせていただいた「無意識に社会課題に加担する商業デザインを産む潮流」についてはこちらにあります。

そのデザインの造形美ではなく、そのデザインのあり方について論じたい

これまでデザインを評価するにあたり、「造形的な美しさ」が各種アワードでは評価され、より売り上げや集客につながる「効果の有無」が企業やビジネスセクターでは評価されやすかったものの、最近よく目にする”炎上”においてはそれらが「社会的に引き起こす影響」に対して評価・批判されることが多くなっていると思います。

わたしは「その存在」はどのような意味をなすのか、なぜそこに必要なのか、それがあることによってどのような影響があるのかといった「存在」についてより考えるデザイナーが、これからはもっと必要なのではないかと考えている一人です。

最近で言うならば、アリストテレスをはじめヘーゲルやハイデガーの存在論(Ontology)に近く、「存在論的デザイン」と呼ばれているらしいです。

we design our world, while our world acts back on us and designs for us. / 私たちが世界をデザインしている一方で、世界が私たちに働きかけ、 私たちをデザインしている

Anne-Marie Willis

存在論的デザイン / Ontology Designとは

私たちは、日々暮らす中でさまざまなものを生み出しています。言葉や行動もそこに含まれますし、デザイナーならグラフィックデザインをはじめとして文具や家具家電や建築物といった形として見えるものも。

循環の中に構成されるわたしたち

そして、それら私たちが生み出したものが積み重なり、関係しあい、それらによって環境・社会が構成されていきます。その私たちによって紡がれたその環境・社会の中で、私たち自身も生きている。

つまり、私たちが作ったものによって、私たちの行動がデザインされている、ということです。このデザインの循環・フィードバックループを意味するのが、「存在論的デザイン」というわけです。

たとえば、衣服や家具などが作られるときはいつでも、存在論的デザインの行為であると言っても過言ではなさそうです。すべてのデザインは存在そのものに影響を与えるように作られているのだから、すべてのデザインは存在論的であるとさえ言える。

つくる責任、つかう責任

特に私たちは1人・1匹では生きていくことのできない社会的な生物であることや、私たちが生まれる前から存在するこの社会・世界で生きているのだから、「ここ」でデザインする以上は、目の前の役割を全うし「納品しておわり」であることなどありえず、契約上の責任が終わるだけであって、自分が生み出したものの社会的責任はその後も続くのだと考えています。

これは少数の独立したコミュニティーの中で生まれたものであったとしても、公に公開されるものであったとしても変わりません。そして、その影響は短期的なものもあれば、時間・時代を超えて影響しうるものもあります。

私たちは、それが見え、それはつづいている

つくる私たちは、その責任として倫理と正義を胸に、誰かを傷つけていないかをチェックすることや、「これを生み出すということはどういうことなのか」を真に見つめ直す必要があると思います。

そして、それらをつかう私たちは、ネガティブに言えばそれらに「加担」し、それらが存在することを認め、次なるものとの関係をつなげる行為をしたと言っても過言ではないと思います。ここでも「これをつかうということはどういうことなのか」と、捉えることを今一度すべきなのではないでしょうか。

私たちが目指す世界はどのようなもので、そのためには私たちは何をうみだし、どのような行動をとるといいのか。「一度のことだから」ということが、言葉の通りとはならないということに早く気づくべきです。


参考にしたもの

https://eyeondesign.aiga.org/ontological-design-is-popular-in-design-academia-but-what-is-it/

Arturo Escobar『Designs for the Pluriverse: Radical Interdependence, Autonomy, and the Making of Worlds』(Duke University Press, 2018)


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