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井上光明物語

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思いがけず中国の田舎町から始まった僕のキャリアを振り返るエッセイ集です。
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1勝35敗。思いがけず渡った異国の地で、唯一挙げた1勝の話

1勝35敗。思いがけず渡った異国の地で、唯一挙げた1勝の話

「グゥアンミン!」

「光明」の中国語発音で僕の名前を呼び、1勝35敗のシーズンで唯一挙げた勝利のウイニングパックを手渡してくれたのは、チームメイトの中国人、ジンナンだった。

2009年9月。僕は大学卒業後に入団が内定していた名門実業団アイスホッケーチーム「SEIBUプリンスラビッツ」(株式会社プリンスホテル)の廃部決定を受け、一度は競技引退も覚悟したが、最後の最後で入団オファーをくれた中国のチ

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まだ見ぬ荒野にレールを描く ~中国生活奮闘記②~

まだ見ぬ荒野にレールを描く ~中国生活奮闘記②~

■これまでの話■
①大学卒業後内定先の廃部で中国へ行くまでの話
②中国ハルビン到着から、初めてチームに合流する話
③中国生活奮闘記①

怪奇現象22時が待ち遠しかった。

2009年。ルーキーシーズンを過ごした中国のアイスホッケーチーム「チャイナドラゴン」所属時代、僕が最初に住むことになった「家」であるハルビン体育学院の学生寮では、しばしば"怪奇現象"が起きた。

インターネットが今ほどは発達して

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まだ見ぬ荒野にレールを描く ~中国生活奮闘記①~

まだ見ぬ荒野にレールを描く ~中国生活奮闘記①~

このエッセイは、単体でも読んでいただけるように書きましたが、以前書いた「レールの上を歩くはずだった僕の人生が変わった時の話」と、その続編「レールから外れた僕が迷い込んだ『別世界』」を読んでいただけると、より話がわかるかと思います。

「没有。」は、僕が中国に住み始めてから2番目に覚えた言葉だ。

「メイヨー」と発音するこの中国語の意味は「無い」。街のスーパー、レストラン、あらゆる店員に辿々しい中国

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レールから外れた僕が迷い込んだ「別世界」

レールから外れた僕が迷い込んだ「別世界」

このエッセイは、以前書いた「レールの上を歩くはずだった僕の人生が変わった時の話」の続編です。

「あそこが私の家だ。」

ハルビン空港から30分くらい走った頃、煌びやかな電飾をまとった建物の上層階を指差し、クラウンを運転するおじさんは中国語でおそらく僕にそう言った。長い沈黙を破るその言葉に、僕は大袈裟なくらいに頷いたが、結局会話はそれだけだった。車内には再びクラウンの静かなエンジン音が響き渡った。

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レールの上を歩くはずだった僕の人生が変わった時の話

レールの上を歩くはずだった僕の人生が変わった時の話

「僕の人生これで安泰。」

大学2年の2007年8月。僕は憧れだったアイスホッケーの名門実業団チーム、SEIBUプリンスラビッツ(以下西武)から入団オファーをもらった。僕の地元東京東伏見に本拠地を置くそのチームに、未だかつて地元出身の選手が入団したことはない。それどころか、北海道出身者が9割以上を占める実業団のチームに、東京出身の選手が入団すること自体が珍しかった。

僕は小学校の卒業作文をきっか

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