超常異能の改変作家 第15話

  *

「――さて、皆さん……初めまして。私《わたくし》は一年A組の担任を務めます先生師子《センジョー・ノリコ》と申します。どうか、一年の期間になりますが、仲良くしてくれると嬉しいです」

『よろしくお願いします』……と、一年A組の生徒が声をそろえて言った(もちろん僕も)。

「はい、よろしくお願いしますね。では、なぜキミたちが一年A組に選ばれたのかを説明いたしますね――」

  *

「――要はキミたちが模擬戦でトップ二十に入った実力者である、ということです」

 なるほど、確かに僕たち四人は、あの模擬戦に勝利したわけだから、そうなるよなあ……麻音《アサネ》姉ちゃんも生萌《イクモ》もA組らしいし、そんな気がしてた。

 アルファベット順で強さを決めている、というわけか。

「A組は、そのトップ二十に入る実力者たちの集まりというわけです。つまり、キミたちの概念は、はじめから完成されたものだった、ということになります」

 先生は「ふう」と言って、話し続けようとするのだが――。

 ――教室のドアがバーンと飛んでいく――向こう側の窓まで飛んでいき、窓のガラスが割れる――。

「――わりい。遅刻だわ」

 その少年は明らかに「不良」だった――。

「――けどさあ、プラスにはしてくれよ? だって、俺……『不良』だからさ――」

  *

 概念。

 それは、それを表す共通認識である。

 たとえば僕らが「犬」を見たとき、それは「犬である」と理解できる。

 なんらかの共通項があるものが、それを表す概念である、と言える。

 ハーティア異能覚醒学院《いのうかくせいがくいん》は、その概念を抽出されたような人物を転移・転生者に選ぶ。

 そのほうが世界を救ってくれる確率が高くなる。

 それが「概念」を表すとき、それはその概念なのだ。

 究極の概念の転移・転生者たちが一年A組にいる生徒たちである。

 そう、たとえ暴力や非行に走る「不良」であっても――。

  *

「――けどさあ、プラスにはしてくれよ? だって、俺……『不良』だからさ――」

 ――不良だから、なんだというのか。

 教室のドアをバーンと足で壊し、その反動で飛んだドアが窓ガラスを割る。

 普通の学校なら許されるものではない――そう、普通の学校ならば、だが――。

「――不入良太《フニュー・リョータ》くんね。キミの席は、あそこだよ」

 先生師子《センジョー・ノリコ》は普通の担任ならば、ありえない対応をする。

 普通は怒るだろ、普通は。

 だけど、なにもしないのには理由があった――。

「キミの概念は『不良』だから、どうしても『不良っぽい』ことをしなくてはならない。だから仕方のないことだって、みんな理解している。一年A組は、究極の概念を持つ生徒の集まりだから」

『…………』

 誰もツッコまない……誰か勇気のある者よ、ツッコんでくれ。

「キミは『不良』になるために仕方なくやっているんだよね。わかるよ。つらいよね。そうしなければ、この世界では生き残れないから――」

「――……そうなんだよ。マジつれえわ。わかる先生で嬉しいよ。別に俺は好きで、こんなことをやっていないの。でも、誰にも理解されない。『不良』って、つれえな。なあ、そこのメガネのガリ勉くんよお?」

「はっ、はひ……そうですね。本当につらいこと、だと……思います」

「覇気がねえ、なっ!」

 瞬間、見た目がガリ勉してそうな男子が不良に殴られる。何発も、何発も――。

「――これから何度も言うことになるかもしれねえが、俺は、つれえんだ。暴力をしなければ『不良』でいられないから。心はすごく悲しんでいるんだぜっ!」

『…………』

 誰も、なにも言えなかった……はず、だが――。

「――やめなさいっ!」

 初芽《ハツメ》っ!

 彼女が動いた。

 本当は僕が動くべきだった。

 なのに、怖くて、なにもできない自分が情けない――。

 ――動こう。

 初芽《ハツメ》の声と同時に僕も動く。

「そうだぞ……不入良太《フニュー・リョータ》くん、その『不良』にならなければいけないのは、どうしても必要なことなのか?」

「必要かどうかと聞かれたら『必要』だな。それは概念の活性化をさせるために必要なことなのさ」

「概念の活性化?」

「『不良』であり続ければ、あり続けるほど、『不良であること』が強さになる、ということさ。常識だろ? この一年A組にいる奴らは、みんなそうだ。自分の概念を活性化させるために究極の概念者《コンセプター》にならなければならないのだから」

 究極の概念者《コンセプター》……だと?

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?