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キミはボクの年下の先輩。第4話「ビンビン心が高鳴ってるかい?」

  *

 今日の加連先輩との出来事をボクは家のお風呂の中で思い出していた。

『祥汰くん……京姫お姉ちゃんに……興奮……した?』

『…………』

『なんて、ね。どうだった?』

『よかった、ですけど』

『創作意欲は湧いたかい、と言ってるんだけど』

『……あぁ、創作意欲ですかぁ……』

 創作意欲が湧いたか、と言われたら、そう、なのかなぁ……。

『湧きましたよ。そりゃあ、もう』

『ビンビンかい?』

『はい?』

『ビンビン心が高鳴ってるかい?』

『ええ、まぁ、はい……よかったです……』

『それは、よかったよ。本当に、よかった。なにか心から感じられるものがあれば、それが創作意欲となる。今日のキミに、なにか文章を書ける意欲はあるだろうか?』

『はぁ……文章、ですか』

『なにも小説やライトノベルのようなものを書けと言ってるわけじゃないんだ。ここは文芸部だから、詩、随筆、論評などの執筆をしてもいいんだよ。短くてもいい。とりあえず、なにか書け』

『わかりました、けど』

 今日の夕方のボクは、ただ、加連先輩に従うしかなかった。

 というか、加連先輩に対して、それくらいの羞恥心があったから、どう書いても、これは……心が持つのだろうか、と、ボクは思ってしまう。

 ボクは加連先輩に命令されるように加連先輩のノートPCで、加連先輩がボクにおこなった膝枕耳かきプレイの内容を綴っていく。

『「とても、よかったです。ありがとうございました」』

『とても、よかったです? ありがとうございました?』

 加連先輩は不服そうな顔でボクを見る。

『違う、そうじゃない! 私がキミに求めているのは、一、二行で終わる感想文なんかじゃないんだ!』

『もっと書け! ということですか?』

『それもそうだが、もっと重要なことがある! 五感のすべてから感じたものを書くんだ!』

『五感のすべて、ですか?』

『そうだ!』

 加連先輩は、いつものクセで、またズビシッ! と、ボクに人差し指を向ける。

『まず、私の太ももの感触は、どうだったんだ?』

『どうって、えっ?』

『どういう感触をしていたか、思い出せるかい?』

 ボクは、うーん……と、考えているフリをするわけだけど……なんでボクが考えているフリをしているのかというと……なにを言ってもハラスメントになってしまうのではないか、という恐怖がボクの脳内に浮かんでくるからだった。

『でも、ですよ。加連先輩はボクが正直な感想を言わせたいみたいですけど、それって加連先輩に、その、ハラスメント的なことをおこなうに近いことだと思うのですが……』

『大丈夫だよ』

 加連先輩は首を縦に振り、ボクの目を見つめた。

『どんなキミでも、私は受け入れるよ』

『受け入れる、って?』

『私はキミを受け入れるから、普通の女子高生にしてはいけない、どんなハラスメント行為でも、ちゃんと受け入れるさ』

『なんで、ですか?』

『それは、また今度、私から言わせてもらおう』

 加連先輩は満面の笑みで再びボクの目を見た。

『それより、私が、こんなに言っているのに、まだ正直に書けないのかい?』

『うーん……いいの、ですか?』

『いいとも!』

『……わかりました。ボクは文芸部の部員になったんです。だから、ボクはボクにできることをします』

『よろしい! では、書きたまえ!』

 ボクは加連先輩のノートPCを借りて、文章を書き始めていったのだった。

 その内容は以下の通りだ。

  *

 今日の文芸部のシチュエーション活動――略してシチュ活――は部長である加連先輩の太ももを枕にして、加連先輩が耳かきをしてくれるシチュだった。

 まず、加連先輩が、ぽん、ぽん……と、太ももを叩いて手招きをしてくれた。

 最初は抵抗があったが、加連先輩の説得により、素直に彼女を受け入れることにしたボク。

 そして、ボクは加連先輩の太ももを堪能するのだった。

 彼女は、いつも通りに黒いニーソックスを履いていて、その靴下の感触がザラザラしていて、ちょっと違和感を抱いたのだけど、よくよく考えてみると、黒いニーソックスの上は生の太ももであり、その生の太ももの上は女子の下半身を守るための砦が装備されているだろう。

 そう考えただけで、男子であるボクは心がタップダンスをするかのような感覚になった。見えなかったけど。

 ニーソと生太ももの感触は、まだ前座である。

 本番は、ここから始まるのだ。

 太ももから感じられる柔肌の感触に加え、ボディーソープの香りがすることを感じ取っているボクだが、さらに心をくすぐるイベントである耳かきが始まっていく。

 コリコリ、ゴリゴリ、カキカキ、カリカリ、ガリガリ、と、複数のオノマトペがボクの耳の触覚として伝わってくるのを感じた。

 追撃するかのごとく、ふぅ〜、ふぅ……ふぅ〜、ふっ、ふっ、ふっ〜……と、先輩がボクの耳に甘い息を吹きかける。

 これは、きっと女神の息吹なのかもしれない。

 先輩は、あのとき、自分のことを文芸女神・加連京姫と言っていたが、まさに女神が舞い降りた、とは、このことを言うのだろうと思ってしまった。

 ボクは素直に認めたい。

 加連京姫が女神であるという事実を。

 耳元から、お姉ちゃんになっている彼女の声が聞こえる。

『痛くは、ないよね?』

 彼女の心遣いが最高だった。

 太ももの感触に加え、聴覚にまで癒やしを与えてくれている。

 このシチュを体験できる僕のような男性が存在することを知った人がいるのだとしたら、きっと世界中から妬まれることだろう。

『じゃあ、続けるね』

 その一言が天国的体験を永遠に続かせてくれる希望のように感じた。

 両耳の掃除が終わってしまう時間が来てしまったとき、ボクは、もう、この天国が体験できないのかと絶望してしまう。

『ふぅ、ふぅ、ふぅ〜……』

 最後の女神の息吹が右耳に感じられたとき、ボクは、この天国が終わることを悟った。

『……はい、おしまい。どうだった?』

 どうって、最&高に決まっているじゃないですか!

 また、太もも耳かき体験、したいなぁ……!

 こうして、ボクと加連先輩の初めてのシチュ活が終わっていくのだった。

  *

 加連先輩はボクの文章を読んでくれていたのだが。

『どう、でしょうか?』

 ボクは、恐る恐る質問するのだけど。

『ショタくん、キミ……』

『はい』

『少年のような顔と体格をしている割には……』

『は、はい……』

『おっさん、だねぇ……』

『おっさん、ですか?』

『うん、キミ、実は中身が、おっさん的思考で支配されてるのかもね』

『おっさん…………』

 ちょっとだけショックを受けてしまうボク。

『でも、書かせたのは加連先輩じゃないですか!?』

『いやぁ、これ、この学校の女子生徒たちが読んだら、ショタくんの見る目が変わるだろうね……もちろん、悪い意味で』

『だから、書かせたの、加連先輩じゃないすかあああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!』

『ごめん、ごめん、ごめんよ、ショタくん……まさか、そういう方面でのセンスがあったとはねぇ……』

 加連先輩は、ふぅむ、とノートPCに映るボクの文章を見た。

『でも、いいよ。それだけ自分の思ったことをさらけ出せるのは作家になる大事な要素になると思うから。あとは、そうだなぁ……その想いを加工する技術かな?』

『想いを加工する技術、ですか?』

『うん、それは、たぶんプロになるためには絶対に必要な要素だと思うよ。私も、そこが、まだ、できてないところではあるけど』

 加連先輩はボクの手を握った。

『私の無茶なお願いを聞いてくれて、本当にありがとう。これからも文芸部の部員でいてほしい。よろしく頼むよ、四戸祥汰くん』

『はい、よろしくお願いいたします! 先輩!!』

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 …………ということがあったんだ。

 ボクは今日の彼女との出来事をお風呂場の中で思い出しながら、高ぶる感情を吐き出していく。

 賢者への一歩を踏み出したのだった。

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