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みやまる・フェリーニ映画エッセイ

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「8 1/2」「道」「甘い世界」「魂のジュリエッタ」「フェリーニのローマ」について書いてます。
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主人公は「永遠の都」:『フェリーニのローマ』

主人公は「永遠の都」:『フェリーニのローマ』

※注意 この文章を読む際はネタバレ等、核心部分への言及があります。個別に判断したうえで、読んでください

主人公は「永遠の都」

 『フェリーニのローマ』に明確な主人公は存在しない。強いて言えばアウグストゥス以来、悠久の時を経てもなお、宗教的にも文化的にも重要な地位をもつ、ローマという都市そのものが主人公と言えるかもしれない。

 フェリーニは1968年に『サテリコン』を監督すると、劇映画から少し

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作風から遠ざかり、観客と一番近い位置へいく妻:『魂のジュリエッタ』

作風から遠ざかり、観客と一番近い位置へいく妻:『魂のジュリエッタ』

※注意 この文章を読む際はネタバレ等、核心部分への言及があります。個別に判断したうえで、読んでください

混沌の中の「生け贄」

 フェリーニ映画の男性は女性を追いかけ、その俗っぽい欲さえも映画芸術に落とし込んでいたが、作中の女性は『8 1/2』のサラギーナをはじめ、豊満な肉体と強い主張を持つ、我の強い女性を描いてきた。

 一方で『道』でジェルソミーナを演じ、実生活でフェリーニに妻であったジュリ

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影を追う人間の、不器用な影:『甘い生活』

影を追う人間の、不器用な影:『甘い生活』

※注意 この文章を読む際はネタバレ等、核心部分への言及があります。個別に判断したうえで、読んでください

影を追う人間の影

 華やかな世界にいる人間の、その光の裏側にある醜聞を報道することで耳目を集めるイエロージャーナリズムに辟易としている人も、私を含め多いのではないか(現にこの文章を書いている今、とある俳優のそうした報道が出ている……)。そうした醜聞を追いかける人間をパパラッチとも呼ぶが、この

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石ころが全てを肯定する“おとぎ話”:『道』(1954)

石ころが全てを肯定する“おとぎ話”:『道』(1954)

※注意 この文章を読む際はネタバレ等、核心部分への言及があります。個別に判断したうえで、読んでください

オート三輪が登場する“おとぎ話”

 この作品の象徴の一つに、旅芸人のザンパノ(アンソニー・クイン)のオート三輪がある。公開された1954年当時から、大きく乖離した過去の物語ではないことがわかるのアイテムなのだが、なぜかこの『道』には、「むかしむかしあるところに」という“おとぎ話”のような雰囲

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映画芸術の中に確かに存在する普遍:『8 1/2』

映画芸術の中に確かに存在する普遍:『8 1/2』

※注意 この文章を読む際はネタバレ等、核心部分への言及があります。個別に判断したうえで、読んでください

通俗的な苦悩をも魔術にかける

 大渋滞のハイウェイのアンダーパス。ほかの車からは不気味な視線が注がれ、車内にも排気ガスが充満している。抜け出すも留まるも地獄という状況において、必死になって車内から抜け出し、気持ちよく空へと羽ばたいたかと思えば、ロープで足をひっぱられ地面へ真っ逆さま。

 『

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