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6月は株主総会が多く開催されます。開催のピークは6月29日のようです(東証調べ)22年3月期は4年ぶりに上場企業3社に1社が増配となりました。そこで企業とステイクホルダーの1つである株主の関係を日経の記事・ESGの視点で考えてみましょう。読むより聴きたい、と言う方は 6/10(木)ヤング日経でどうぞ→ https://voicy.jp/channel/874

重視されるESG視点

以前に比べアクティビストという物言う株主から企業との「対話を重視」したことによって、じっくり変化している関係をESG各々の視点をご紹介します。これは6月6日の記事 みんなのアクティビズム 「利己も利他も」変わる株主 などを参考にしています。記事のリンクを各箇所に貼りますので是非記事もあわせてチェックしてみて下さい。

基礎情報

ESGは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字です。企業の長期的な成長のためにESG3つの観点が必要だという考え方が世界的に広まっています。言い換えればESGの観点が薄い企業は長期的な成長ができない企業を意味します。ESGの観点は、企業の株主である機関投資家の間で急速に広がり投資の意思決定では従来型の財務情報だけでなく、ESGも考慮に入れる手法は「ESG投資」と呼ばれています。ESGと似た概念にSRI(社会的責任投資)がありますが、最近ではESG投資のほうがより使われます。ESG投資は他にも「責任投資(Responsible Investment)」「持続可能な投資(Sustainable Investment)」などと言われますが意味は同じです。それではESG各々紹介していきましょう。

E 環境(Environment)

米国バイデン政権になってから4月の気候変動サミットなどでも脱炭素という言葉を多く耳にします。世界的に有名な運用会社ブラックロックは投資先の企業に対し温暖化ガス排出に関する完全なデータを開示するよう求めました。気候変動に対する企業の責任をより明確にする取り組みの一環で、開示が不十分な企業に対しては、株主総会で取締役に反対票を投じる可能性があります。

ESGがアメリカよりも盛んなヨーロッパはさらに進んでいます。欧州監督機構、サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)が今年3月にEUで発効されました。これによって金融機関や投資家は気候変動・人権問題などのESG関連について詳細に開示することを求められます。欧州、米国の流れが日本にも来ていることは明確です。

環境に関して言うならば対応することによって中長期的にコストがかかります。非財務的価値、納税すると考えて進めるのでしょうか。対応することで結果として信頼が増し資本調達コストが下がると考えることもできます。

S 社会(Social)

ここでは人の多様性を取締役会に求める動きが強まっています。資産運用会社ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントは「取締役会に女性がいない会社の取締役選任議案に反対する」という議決権行使の基準を発表しています。昨年夏の株主総会では、約400の企業で反対票を投じました。同社は「ダイバーシティー(多様性)はイノベーションを生み、よりよい職場環境をつくり、人材採用でも有利だ」。最低1人の女性取締役が必要で、本来は1人だけでは不十分と表明しています。また欧州最大級の資産運用会社のリーガル&ジェネラル・インベストメント・マネジメントも同様の対応です。

昨年12月には米証券取引所ナスダックが、上場企業に対して黒人など人種的マイノリティー(少数派)やLGBT(性的少数派)、女性の取締役登用を義務づける方針を明らかにしました。不採用の理由を説明しない企業は上場廃止となります(すごい!)。役員や従業員の多様性を求める声が高まっていることに対応した結果です。

日本はいろいろ遅れていますが…特に取締役の多様性は大きな課題の一つです。東証1部の約900社において約1000人、女性・IT専門人材の候補が少なく不足すると言われています。企業統治指針が改定されるのは2022年4月予定されている東証の市場再編に先駆けたものです。改定指針では東証1部を引き継ぐプライム市場の企業に対し独立した社外を取締役全体の3分の1以上にするよう求める見通しです。また女性の役員比率を高めるため社外取に女性を登用する企業が増えています。

なお「全国株懇連合会」によると2019年上場企業など1759社のうち女性取締役がいた企業は40%、うち8割の企業は1人のみということです…(涙)

G ガバナンス(Governance)

ガバナンスは少しイメージがわきにくい方もいるのでどのようなものかご紹介します。企業におけるガバナンスの定義は以下です。経営者や取締役会、株主など、企業内の様々なグループについて、その権利や役割、責任を定める枠組みを提供するものを、ガバナンスと呼びます。企業におけるガバナンスは、コーポレート・ガバナンス(企業統治)とも呼ばれ、日本証券取引所グループ(JPX)では、以下のように定義しています。“会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み“

ということで・・・取締役は会社をチェックしているかに焦点があてられます。 野村アセットマネジメントは昨年11月「日本企業に対する議決権行使基準(以下、議決権行使基準)」を改定しました。改定では議決権行使を通じて日本企業の「モニタリング・ボード」への移行を後押しする姿勢を明確にしています。それにあたり8つの要件を満たす場合のみモニタリング・ボードと判断するとしています。(詳しくはPDFをリンクからご覧ください。)取締役の過半数を社外がしめているか、女性の取締役が1名以上いるかなどです。

「株式の持ち合い」も確認されていました。三井住友信託銀行を傘下に置く三井住友トラスト・ホールディングスが持ち合い株式など政策保有株約1兆4000億円をゼロにする目標としたことが話題になりました。(第一弾として2023年3月期までの2年間で2500億円分を売却予定。)ちなみに政策保有株とは純投資ではなく取引先との関係維持など経営戦略上の目的で保有する株式のことです。昭和の高度成長期に生まれ平成バブル期に広がりを見せた日本特有の「株式持ち合い」です。

金融機関はこれまでも株価下落時の財務健全性を確保するとして、政策保有株を減らしてきています。海外投資家から指摘されることが多いコーポレートガバナンス(企業統治)の改革も影響しています。今回のように大手が「残高ゼロ」にまで踏み込んだことで他の金融機関も政策保有株ゼロにかじを切ることになると…かなり多くの株が市場で売られることになり需給不安が発生する可能性もあります。今後も注目です。

ESGと言う言葉はいずれ消える

あと5年もすればだれも『ESG』について語らなくなる。あらゆる資産運用会社が実行し、当たり前のことになるからだ」。リンクの記事で読めるが最近、英シュローダーのピーター・ハリソンCEOが話したことです。一時的なブームとか投資家が飽きるということでなく、全ての投資運用会社が実行し当たり前になるからだそうです。私が所属している研究室ではGDPだけでははかれない企業(そこで働く人)の価値を金銭的に見える化する指標(新国富指標)を用いて企業のESGに関する活動を評価しています。電通・ベクトル・九州大学(馬奈木研究室)などによる取組みは日本経済新聞でもご紹介いただきました(感謝です!)。

日経の記事にもありましたが近い将来、ESGもアクティビズムも普通になります。(以下、日経記事)企業がコロナ後の新しい経済の姿を展望する株主総会は起業と株主の関係がニューノーマルへと移行しつつあることを強く印象づける場になるかもしれません。企業にとって情報開示や説明責任などは今よりも大変になり負担が増すかもしれません。ただ経営陣にとっては企業を支持してくれる株主が長期的によりそってくれることになります。株主総会は気づきの場になるかも知れません。

6月10日ヤング日経 My CV Semiは長くなりましたが、月末ピークを迎える株主総会とアクティビズムを考えました。番組も聞いてもらえると嬉しいです。

※日経記事を始めいろいろな記事の引用が多いです。興味のあるものをみて頂ければ幸いです。

大塚美幸
Twitter https://twitter.com/myk_otsk

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