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【シロクマ文芸部×曲から一句】眼鏡越しの空と君



 新しい眼鏡は良く見え過ぎて私は少し困ってしまう。3学期に入り引いた席替えのくじはタカヤ君の隣だった。本当は嬉しいのに、素直に喜べない。

 教室に入ると、タカヤ君の机の上には写真集が置いてあった。空がたくさん載った写真集だ。タカヤ君はいつもその写真集を眺めている。だから私は図書室でこっそりと同じ写真集を借りる。写真集を見ていると、私とタカヤ君は同じ空を見て繋がっているような、そんな気がした。

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 タカヤ君は、長身で頭が良くてスポーツもできてイケメンだ。その上、性格までいいときている。神様はどうしてあんなに全てにおいて完璧な人を作ったのだろう。そのおかげでタカヤ君はよくモテる。しょっちゅう女の子達に呼び出されては告白されている。ほら、今も顔を赤くした女の子に呼び出されている。そんな姿を見ながら、私は心ここにあらずで友達とおしゃべりする。

 私は、とにかく自分に自信が無い。目が悪くて眼鏡だって掛けているし、可愛くないし。おしゃれは好きだし、雑誌も読むけど、こんなのを私が着ても絶対に似合わない。おとなしくて、人の目ばかりを気にしている。友達と話すのは楽しいけど、本当は1人で本を読んでいるのが好きだ。

 タカヤ君の事を好きだけど、私なんかが好きでいていいのかどうか分からない。告白なんて絶対にできない。見え過ぎる眼鏡越しに告白されているであろうタカヤ君と女の子を見た。すると、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 先生が来る前、突然タカヤ君が話しかけてきた。
 「斎藤さん、俺さ教科書忘れちゃったんだ。見せてくれる?」
 私は突然の事でなんて言っていいのか分からずにただ頷くのが精一杯だった。並べられた机の真ん中に置かれた教科書を私とタカヤ君は同時に眺める。タカヤ君の横顔は整っていて、まつ毛が長いんだなぁと変な所に感心した。そんなタカヤ君を私は直視する事ができずに、教室の窓から見える空に浮かぶ雲を見ていた。

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 そんな事があってからはタカヤ君と話す事ができるようになった。タカヤ君はこんな冴えない私にも優しくて、なぜそんなに優しくしてくれるのかが分からなかった。周りのみんなもタカヤ君が私に優しくするのが分からないらしく、タカヤ君を好きな女の子が一度私に何か言ってきた。そんな事を言われても、私にも理由なんて分かるはずが無い。そう言うと、少し不満そうな顔をしたけど、もうこれ以上何か言われる事も無かった。こんな冴えない私がタカヤ君とどうかなるなど思いもしないのだろう。それは当然の事だけど、かなり精神的に堪える事でもあった。

 見え過ぎる眼鏡は、前以上にタカヤ君の姿を捉える。好きな気持ちは溢れるし、ずっと見ていたいけど、これ以上好きになるのが怖かった。心のどこかで何かを期待している私がいた。

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 今日は私の誕生日だ。席に着いて、教科書を机にしまっていると何かが手に触れた。机の中には大きめの紙袋が入っている。硬い表紙の本だろうか。袋の中を見ると、あの空の写真集が入っている。思わず隣の席のタカヤ君の方を見た。眼鏡越しの視線の先のタカヤ君は、私の方を見てにっこり微笑んで頷いてみせた。

新しい眼鏡の先のきみのこと
直視できずに視線は空へ

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シロクマ文芸部に参加します💛
今週のお題は「新しい」です。


実は、これはドリカムの曲から思い浮かべたものでした。
2年前に眼鏡越しの空でショートショートを書こうと思っていました。書き掛けでずっと下書きに入っていました。
今回、まず最初に曲から一句として短歌ができました。
そこから繋いでいったショートショートです。書き掛けのものは書き直してしまいましたが。


長年熟成されていた下書きがやっと日の目を見てよかったです⭐️


⭐️追記

知らない間にゾロ目になってました❗️
ゾロ目マニア大歓喜でございます😃
さあ、あとお一人で1000名様いきます💛
いつもありがとうございます😊



今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪


#シロクマ文芸部
#曲から一句
#熟成下書き

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