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【シロクマ文芸部】死がふたりを分かつまで


 「花吹雪の刺青入れてる人が出てくる時代劇って何だったっけ?」
 「花吹雪というか桜吹雪なら遠山の金さんだけど?」
 「ああ、そうそう!遠山の金さんだった。最近はすぐど忘れしちゃってダメね」
 「仕方ないさ。俺たちはもうそんなに若くないからな」
 「そうね。あ、せっかくだから金さん見ない?金さんって言えば誰が印象に残ってる?」
 「そうだなぁ。高橋英樹か松方弘樹かって感じかな」
 「世代的にはそうなんだけど、再放送で見た初代もいいよね。あの歌が忘れられないの」
 「おー、あったなぁ。チョイとやくざな遠山ざくら~♪ってやつな。小さい時を思い出すな」

 あなたと二人で動画配信の初代・遠山の金さんを見た。私たちが生まれる前の時代劇は、昭和・平成・令和と続く時代の流れの中でも色褪せる事無く、予定調和の心地良さと安心感で心穏やかに見ていられる。

 午後の陽の差す窓辺でテレビを見ながらお茶を飲み桜餅を食べる時間は幸せそのものだ。私は、あなたとこんな穏やかで幸せな時間を過ごす事をずっと夢見てきたのだ。

 「この金さんを見たのは何十年ぶりかしらね。懐かしかったわ」
 「ほんと。なぁ、これから桜を見に行かないか?今日は暖かいし、明後日には雨が降るから桜も散ってしまうしな」
 「いいわね。行きましょう!帰りはお寿司でも食べない?もちろん回らないお寿司よ」

 あなたと二人手を繋いで公園までの道のりをゆっくり歩く。せっかくのあなたとのお出掛けだから、早足で歩くのは勿体ない。春の日差しは暖かくて、よく見ると蝶々も飛んでいる。いつの間にかすっかり春になっていて、冬の間に縮こまっていた体も気持ちもぱーんと伸びやかになっていくのを感じた。

 公園の桜は見頃を迎えていて満開の花を咲かせている。平日午後の公園は私たちと同年代の、いわゆるシニア世代の人々が桜を楽しんでいる。時折、ベビーカーを押す若いママのグループともすれ違う。

 「赤ちゃん、かわいいわねぇ。うちの孫はもう赤ちゃんじゃないから新鮮だわ。あなたの所の孫ちゃんはどう?」
 「うちの孫も赤ちゃんではないもんな。今度、うちの娘と孫が来るけど、君も会うだろう?」
 「ええ。私がいていいのなら会いたいわ」

 私たちは今のところ夫婦ではない。お互い一人になって籍は入れていないものの、やっと一緒に暮らす事ができるようになったのだ。

 私たちはかなり前からの知り合いだった。知り合い、というよりもそれは恋愛関係といえるものだった。ほぼプラトニックだったけれど、もちろん会った事もあるし、その頃はまだ若かったから体の関係も数回はあった。お互い好きだったものの、家族もいたし、様々な事情で先に進めずにいた。

 世間的には不適切だといわれる関係で、家族を裏切る事でもあるけれど、私はずっと胸の中で愛情の火を燃やし続けていた。燃え上がり過ぎないように、時折火力を調整しながら、じっくりと程良い火加減で火を絶やさないように細心の注意を払いながら生きてきた。それは、おそらくあなたも同じだったと思う。

 池のほとりの大きな桜の木の下のベンチに腰掛けて、あなたと二人で桜を見た。写真を撮ろうかとスマホを取り出したけれど、写真を撮るのは止める事にした。写真に残すのではなく、私の心の中にしっかりと焼き付けようと思った。

 あなたの肩に私の頭を預けてみる。まるで初めから私のために存在していたかのようにすっぽりとそれは収まった。あなたは、私の肩を抱いてくれた。あなたの体温を感じて、私は何とも言えない安らぎを感じていた。

 その時、やや湿り気を帯びた強い風が吹いてきた。風は桜の花を舞い上げると、桜吹雪となって辺り一面をピンクに染めていく。その桜吹雪を眺めながら、来年も再来年もずっとあなたとこの景色を見ていたいと思った。

 「少し肌寒くなったね」
 私は左肩に回されたあなたの手を右手でギュッと握ってみた。
 「俺たち、一緒になれるまで長く掛かったよ。今度離れる時は、どちらかがこの世からいなくなる時だな」


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シロクマ文芸部に参加します💛
今週のお題は「花吹雪」です。

花吹雪・・・
先週の風車のお題で書いた時代劇のエッセイがまだ頭に残っていて、遠山の金さんが頭を離れずで。
さすがに二週連続で時代劇エッセイを書くのもいかがなものかと思いました。
それで、冒頭に金さんを持ってきたという訳です。

遠山の金さんにはたくさんのシリーズがあります。

年齢的にリアルタイムで見ていたのは、高橋英樹さんや松方弘樹さんの金さんだと思うんです。
でも、再放送枠でも見ているので、生まれる前の初代の金さんも見ていると思うんです。
金さんの歌と言えば、初代のこの歌が真っ先に浮かびます。というか、他の歌のイメージもありません。

そういえば、江戸を斬るのお奉行様も遠山金四郎だったんですねぇ。
今回、これをネットで調べていたら分かりました。
子どもだったから、あまりそういう事は気にせずに見ていたんですよね。

この曲、よく覚えていました!
改めて聴くと、すっごくいい曲です。

今回のショートショートですが、近未来の設定です。
年齢を重ねても、やっぱり恋はするものだと思います。
若い頃みたいな激しい気持ちの恋愛じゃなくて、もっとじんわりした恋愛というか、人間愛みたいな。
いろいろと世間的には許されない設定のお話ですが、まあこんな世界もありだよねってことで。



今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪


#シロクマ文芸部
#桜吹雪

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