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あのガラケーの着信音と、希望の朝





春、だいたい不調。



ここ3日間、ずっと調子が悪い。
というか私はこのnoteで調子がいい時の記事のほうが少ないので別に調子が悪い事自体は珍しいことではないのだけど。



ひとつひとつの不安なことや心配事は取るに足らないことなのだと思うのだけど、ちょっと弱っているときにまとめて一斉に襲いかかってきたものだから、私はパニックになっていた(まだ少し残っているけど)。



そして今朝も私は細々とした、でもたくさんの不安を抱えて外出した。




行きのバスを待つ間、私は大好きなゲーム『Ib』のBGMのピアノアレンジの動画を再生する。
最近ゲーム実況の動画でこのゲームを知ってからこのBGMを聴くようになったのだ。


それを聴いていたら、急に他のピアノの曲も聴きたくなった。
どうせなら、朝にぴったりで気分が晴れる曲がいいと思う。
その時にふっと思い浮かんだ2曲のうちの1曲が、
ショパンの『英雄ポロネーズ』だった。
(ちなみにもう1曲についても思い出がかなり深くあるので、次回で書く)


私にとってこの曲は、大好きな第2の故郷の朗らかな朝の記憶を蘇らせる1曲で、かなり思い出深い1曲だ。


忘れられない、幼き日の夜明け


この曲を初めて聴いたのは、祖母のガラケーだった。


彼女がこの英雄ポロネーズを目覚ましと着信音に設定していたことがきっかけで、私はこの曲と出会った。
初めは少し怖いイメージがあった、それは最初の力強いメロディーのインパクトが大きすぎたから。
でもある朝、そのイメージを覆す、忘れられない出来事が起こる。


それは、祖母のとなりで寝た次の日の朝のこと。
早朝、突然祖母の携帯が鳴りだす。あのメロディーが電子音になり、私の耳まで届いた。目を開ける。祖母はすでに起きているようで、そばにはいない。うっすらと襖から朝の光が入ってきて、部屋全体をほのかに明るくしていた。
目覚ましだとすぐに気がついたけど、少しすれば止まるか祖母が自分で止めに来るだろうと思って、浅い眠気に誘われた私は再び目を閉じる。
ブランケットの感触。畳の香り。そして…電子音で奏で続ける旋律。


なかなか止まらないそのメロディーに、私はもう一度目を開けた。
体を起こして彼女の携帯を探す。
どこにあるのか分からず、仕方ない、とすっかり眠気はなくなったものの再度ブランケットで自分の身を包んだ。

ループ再生される設定なのか、あの旋律が幾度も幾度も私の鼓膜を震わせた。
私はその音の連なりを聴きながら、部屋の天井を見つめたり、深呼吸したりした。ゆっくりと時間をかけて、でも着実に明るくなっていく部屋。
美しい旋律と、朗らかで都会では全く出会えない新鮮で、それでいてどこか朝露を思わせる湿った空気がそう、まさにブランケットのように全身を包み込む。初めは少し驚いていた私も次第にその音楽に朝の訪れの喜びを感じていた。


その瞬き、たった一瞬であの繊細で力強いメロディーは、大好きな祖父母の家に訪れる爽やかな朝と一緒に記憶された。
それからずっと、私はそのメロディーの虜だ。


それを今朝、バスを待つちょっとした時間で思い出した。
曲名をYoutubeで検索し、上位に出てきた動画を再生する。


変わらない力強さと機敏なメロディーの変化、まるで虹のような音色。
私は一瞬であの朝、喜びを抱えた幼かった自分の記憶を思い出す。


それから、祖母の朝のひとときを思い浮かべた。
まだ薄暗い庭で、植物たちに水をあげる姿。
その庭で採れた自家栽培の野菜を洗ってサラダにしたり、目玉焼きをフライパンで焼いたりする姿。
ひとり、キッチンの横のテーブルで朝食を食べながら朝ドラを見る姿。
それから、明るくなった庭で洗濯物を干す姿…。



今、祖母はどんな朝を過ごしているのかな、なんて考えた。


私にとって、この英雄ボロネーゼは大好きな土地の夜明けと、その次に訪れる早朝、そして希望を思わせる曲だ。



私は空を見上げた。そういえば、久しぶりの晴天。空が青くて気持ちがいいな、なんてことを思う。



そうしていたら、さっきまでの苦痛がほんの少し軽くなったことに気が付く。
そうか、私、こういうのが好きなんだった。危うく忘れそうだったよ。


最後の一節、オクターブで弾くあの部分で、
あまりの美しさに私は吐息をついた。




*私がよく聴いているのは、このCANACANA familyさんの演奏動画です。
よかったらぜひ聴いてみてください!


引用:『感謝!50万人 - 英雄ポロネーズ - ショパン- Polonaise No.6 "Heroique" Op.53 - Chopin - クラシック - ピアノ -piano- CANACANA』
https://www.youtube.com/watch?v=4uSiYGzgFcY


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