- 運営しているクリエイター
記事一覧
オポチュニティを想って泣きました『宙わたる教室』
本屋大賞発表時には「いいなー、みんなこれからあの感動を得られるんだ」みたいな気持ちになるんです。が、今年はそういう気持ちにもならないくらいにこの『宙わたる教室』に感動して過ごしています。
来年の本屋大賞はこれになってほしい!って思ってるくらいなんですが、残念ながら発売日が昨年の10月だったので、今回の対象作品。無念。
ちなみに順位は14位です。
もともと伊予原さんは好きな作家ですし、この本につ
『方舟を燃やす』に漠然とした不安との付き合い方を考えさせられた
不安と噂の大河ドラマみたいな小説でした。なんのこっちゃ。
子ども時代は学校の七不思議だの、世界の七不思議だのに夢中になり、恐怖の大王が降ってくるというノストラダムスの大予言に「未来があるのかないのか」と不安になったものでした。
小説中に描かれる、1967年からの社会の様子に、あの頃抱えていた”漠然とした不安”を思いだしました。昭和~平成~令和の時代に起こった様々な事件を切り取って描きだしたことで
ハードボイルド江戸市井小説だった『夜露がたり』
凜とした、武士の矜持、背筋が伸びるような… これまで神山藩ものを読むときはそんなキリッとした、そして前向きな印象をもって読み終えたものでした。
そんな砂原さんが描く市井はどんな人情ものになるのだろう。とわくわくしていた気持ちは冒頭から裏切られます。江戸市井ものといっても、人情ものとは遠く、江戸の時代を生き抜くということはこれほど苛烈なものだったのか。と、そんな感じなのです。
非情なまでのしたたかさ
新しいおひとりさま物語、かも『襷がけの二人』
表紙に二人の若い女性がたすき掛けをして、家事をしながらおしゃべりをしている姿が載っていたので、女中さんの友情物語かしらと思って(いつものことながら他は何も見ず)読み始めた作品。
読み終わってから振り返ると、ある意味ちょっと風合いの違った「おひとりさま」物語なのではないかと感じています。
表紙を飾る二人は、女主人と女中さん。この二人の人生そのものが襷がけのような関係でもあります。
戦前~戦中~戦後
三月といったらこのシリーズ『夜明けの花園』
恩田陸作品で、装画が北見隆となったら、そりゃあ「理瀬」シリーズでしょ。ということで迷わず手に取りました。何も考えずに。
ところが、なぜかこの裏にはおぼえがある…デジャブ!? って、新たな能力覚醒したのかと思ったんですけど、これまでの各種短編集に載ってる話だった。というオチ。
とはいえ、『三月は深き紅の淵を』の出版からもうそろそろ30年にもなるので、どのみちはっきり覚えてないし、さて、その話って
むせかえるような愛情『二人キリ』
「村山由佳が阿部定書くんですってよ」「ぎゃー」
という会話が某所でありました。似たような感想を持った人は私だけではあるまい。
野次馬根性丸出しの読者に対して”そういうことではない”という釘を刺すところからはじまります。そこには、誰も知らなかった阿部定を描いてみせるという村山さんの意気込みみたいなものを感じました。
全編を通じ、文中から漂ってくるのが隠しきれない血の臭いとどことない腐臭。
愛しい
描くことを描いた前作、描かないことを描いた今作『一線の湖』
『線は、僕を描く』の続編。初めてこの『線は、僕を描く』というタイトルを聞いたとき、「僕は、線を描く」の間違いじゃなくって? と聞き返したのを思い出しました。
そして、読み終わってその意味を知ってそれだけで泣けたのも。
主人公の大学生、青山霜介くんは前作で両親を交通事故で失うという大きな不幸に見舞われています。そんな不幸と喪失感からの恢復を描いたのが前作。
物語は地続きですが、読む方にとっては2年
サラリーマンが竜崎に憧れる理由について改めて考えてみた『一夜:隠蔽捜査10』
なぜ、人は竜崎に憧れるのか。
多分「正しい事を真っ直ぐ言えるから」なんじゃないかと思うのです。それくらい「正しい事」を言うのって難しいことなのですよ、きっと。
サラリーマンをやってると、多かれ少なかれ日々何かを飲み込んで生きてるわけで、空気を読まずにそれを口に出せる強さがあるかどうかの違いくらいしかないんじゃないですかね。
それくらい「わかっていても出来ないこと」は多く、それに気づかずに正義の
同時代を生きてきた駒子に会えた『1(ONE)』
入社して間もない頃、とにかく出版社の名前や本の名前を覚えなきゃいけない、と、やっていたのが棚を凝視するくらい見ること。そもそも、本の仕事をしよう、と決めたきっかけの1冊が北村薫の『スキップ』だったので、文芸書の「き」のあたりには立ち止まる時間が長くなるんですよ。北村薫の新作出てないかなー…なんて。当時は日常の謎流行の時代だったので、その近所にあった「かのうともこ」とか「きたもりこう」とかを順々に読
もっとみる『スピノザの診察室』で野心に追い越されながらも、矜持に生きる人たちのことを考えています
主人公はある理由から、大学病院から離脱し町の病院で勤める道を選んだ雄町先生(マチ先生)。この先生、元々は凄腕の医者で内視鏡界隈ではめちゃくちゃ難しい手術を成功させてきた将来嘱望株だったのです。なので、大学准教授という立場にいる花垣は「大学に帰ってこい」というメッセージを送り続けています。
そんな花垣が放った「野心はなくても矜持はある。そうだろ?」という言葉にドキッとさせられました。そこにしっかり
このワクワク感たるや『成瀬は信じた道をいく』
出版業界では「ベストセラー作家だからって部数が出なくなっている」「著者繋がりの読書が減っている」なんてな話がよく聞かれます。確かに、有名著者だからといって売れる時代ではなくなったのかもしれません。でもね「なんと!あの本の続編が出るだと!?買わねば」ということはあるんですよ。私も成瀬の続編が出ると聞いたときにソッコーで手帳に発売日をメモしました。
このワクワク感たるや。
このシリーズのスゴさは「と
世の鳥好きに全力で薦めたい『水車小屋のネネ』
発売当初から「あれいいよ」「読んだ方がいい」などの絶賛コメントを目にし、直接オススメされてもいたのですが、ようやく読めました。そして読んだ瞬間から誰かに薦めたくてたまらなくなっています。
動物と人間の関わりを描いた作品はいくつもありますが、ここまで心揺さぶられたのは久しぶりです。
この『水車小屋のネネ』は、水車小屋に住むヨウムの”ネネ”とそれを取り巻く人たちの40年間を描いたお話です。この物語が成