映画「ロストケア」〜余白がない、故に〜

※ネタバレを含みます。
※あまり褒めていません。

映画「ロストケア」の感想です。はじめにお断りですが松山ケンイチのファン歴約20年のオタクです。故に「ケンイチ」と書いてますのでよろしくお願いします。

ケンイチが「ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ」(ちゅらうみ水族館が舞台、ケンイチが主演)に出演したご縁で前田監督とつながり、前田監督が原作本をケンイチにすすめたことがきっかけで、ふたりで約10年間あたため続けやっと映画化にこぎつけたそうです。
ということでケンイチが主演でありつつちょっとプロデューサー的な役割も担っています。

ケンイチ演じる介護士の斯波が重ねた要介護の高齢者の大量殺人を、長澤まさみ演じる検事・大友が詰問する、というのが大筋のストーリーです。

正直な感想として、映画の出来としては「中途半端」でした。
家族の絆・呪縛から解放する殺人を正義と言う斯波/それを断罪する大友の感情vs倫理の対立も、認知症介護の壮絶さも、かつての斯波親子を苦しめた制度の穴も、全部を詰め込もうとして、詰め込んだはいいがその代償として余韻や間がない。かといって「ノンストップサスペンス!」というスピード感もない。おそらく原作は(原作未読です)ミステリーであり、そこにエンターテイメントとしての一本筋が通っていたのに、社会的な問題も絡めた人間ドラマにしてしまったが故に筋がぶれてしまったのではないかな、と。
これが映画ガリレオシリーズならきちんと「ミステリーとして人間ドラマを成立させた」んじゃないかなと思います。
斯波が行ったのは世論を揺るがす大量殺人のはずなのに、センセーショナルさを全く感じられず、悲しいくらい小さくまとまっています。
人間ドラマとしては同じく「認知症介護と殺人」のテーマで撮られた「愛、アムール」の足元にも及ばない、というのが感想です。
(「愛、アムール」は徹底した人間ドラマでした。それが良かった)

映画の良いところも。
まずキャスティングですね。ケンイチが出てるから言うんじゃないですよ。
ケンイチが良いのは当たり前として、
・検事事務官椎名役の鈴鹿央士くん 
・春山(スーパーに出入りの業者さん)役のずんのやすさん
鈴鹿くんもやすさんも「いそう!!!!! こういうポジションのこういう人、いるいる!!!」という説得力が半端なかったです。映画ガリレオの飯尾さんといい、ずんのポテンシャルすごくないですか?
斯波の父親役柄本さんは、パンフでも書かれていましたが、本当に……素晴らしかったです。

ついでのように書きますが、劇伴もすごく良かったです。

ケンイチが映画のインタビューで「孤立させないこと」「備えること」について言及しています。この映画を観た観客が出すべき模範解答のひとつだと思います。ケンイチのインタビューはいつも誠実なのでぜひ読んで欲しいです。

「名作になり損ねた映画」というちょっと残念な出来でしたが、誰もが直面するかもしれない介護という問題を、日本の制度の穴にも言及しつつ扱っています。少しでもご興味があればぜひ。

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