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スポーツ嫌いな僕を変えてくれたコービー・ブライアント

子供のころ、スポーツが大嫌いだった。

とにかく運動が大の苦手で、体育の授業はいつも億劫だった。嫌悪感に近い感覚だったのかもしれない。


僕は足も速くなかったし、球技ではいつも足手まとい。逆上がりもできないし、水泳でも25mすら泳げなかった。

野球世代であるにも関わらず、友達と一緒に野球で遊んだ記憶もないし、ルールすらよくわからなかった。

見かねた父に野球観戦に連れられて行っても僕は途中で退屈だと駄々をこねて帰っていたし、テレビでスポーツ関連のものを見たのもせいぜいオリンピックの開会式ぐらいだった。

とにかく僕は一生スポーツとは縁がない人生を送るものだと思っていた。

だけどある時、そんな僕の価値観を変える人が現れた。それはNBAのスーパースター、コービー・ブライアントだった。


20歳ぐらいの頃だったか、僕は急にバスケットが気になり始めた。

今思えば理由は幾つかあるけれども、もっとも大きなキッカケはHIPHOPだったと思う。

ビートルズでロックで音楽に目覚めた僕だけれども、当時はよくHIPHOPを聴いていてファッションもそれらしいモノを好んで着ていた。

その頃はHIPHOPといえばNIKEのバッシュに、NEW ERAのキャップ、そしてバスケジャージが定番のスタイルだった。WWJD?という刺繍の入ったリストバンドも流行っていた。NBAの選手がこぞって身につけていたからだ。

だから知らぬ間に自分の部屋にバスケットのグッズが増えていった。そうするとバスケットそのものに興味が出てきても不思議じゃない。自然と、当時NHKで放送されていたNBAの試合を観るようになった。


当時はコービー・ブライアントとシャキール・オニールの史上最強とも言えるコンビ擁するロサンゼルス・レイカーズが支配的だった時代。

他にもアレン・アイバーソン、ティム・ダンカン、ケビン・ガーネット、トレイシー・マグレディ、ダーク・ノヴィツキーなど名だたる選手がしのぎを削り、毎日のようにアメリカ各地で素晴らしいプレーが披露されていた。

だかその中でも特別、いや格別だったのはコービーだった。それまで殆どバスケットを観たことがなかった僕にも、コービーのプレーは他とは違って見えた。まるで彼だけが何か特別な能力を持っているかのようだった。僕はコービーに魅了された。

そして彼がいたレイカーズは強かった。観ていてワクワクした。いつもレイカーズの試合を楽しみにしていた。

スポーツを観ていてすごく楽しい。早く次の試合を観たい。そんなこと感じたのは人生で初めてのことだった。


僕はバスケットが大好きになった。そしていつしか自分でもプレーしてみたいと思うようになって、気づいたら近くの公園のバスケットコートに足が向いていた。

子供の頃は飛んでくるボールすら怖がっていた僕が、毎日のようにコートに行って、そこに集まっている初対面の人たちとプレーするようになった。

コートの常連は現役のバスケ部員や元バスケ部、社会人でも趣味でバスケットを続けているような人たちばかりだった。彼らとはすぐに顔見知りになって、「次はこの日にやろうよ」と約束して集まるようになった。

そう、スポーツを通して仲間ができたのだ。こんなことは人生で初めてのことだった。


ここで、この文章を読んでいる人は不思議に思ったかもしれない。

なぜスポーツが苦手だった僕が、いきなりバスケ経験者の中に入ってもプレーができていたのか?

どうして「またやろうよ」と誘ってもらえるようになったのか?

バスケットが好きになったから?

毎週のようにNBAを観ていたから?

そういう部分もあるとは思う。でも一番の理由は多分そうじゃない。


僕はバスケットが上手だったのだ。


「スポーツが苦手だ」というのは完全に僕の思い込みだった。自分で自分の力を見誤っていて「どうせオレにはできないんだから」と、本当の自分を殻に閉じ込めていたのだ。

実際にバスケットをやってみると、想像以上にちゃんとプレーできている自分がそこいることに気がついた。


プレーしている中でよく言われた言葉がある。

「キミ、とにかく倒れないな!」

そう、僕は押し負けなかった。身長は高いというほどではないけれども、足腰やフィジカルが強かったのだ。自分でもそんなこと全く知らなかった。

ドリブルからのカットインをNBA選手の見よう見まねでやってみると、意外に簡単に突破することができた。当たりに強い僕を、ディフェンスがなかなか止められないのだ。


僕のドリブルを簡単に止められないとわかると、やがて相手のディフェンスが厳しくなる。

そうするとフェイクなどを使いながら中長距離からのシュートを狙わないといけない。

シュートなんか体育の時間でもほとんど撃ったことがないし、まして入ったことなんか一度もない。

それにフェイクなんていうのはバスケ部の上手い連中にしかできないような技だと思っていた。

でもいざトライしてみると、意外と相手がフェイクに引っかかってくれる。しかも相手をかわした後のシュートがなぜか決まるのだ。

自分でも拍子抜けするぐらいだった。


バスケットではよくシュートをする時に「リングの奥を狙え」とか「いや手前を狙え」とか言われることがある。

でも僕はNBAの長距離シューターのプレー見ていて、多分どっちも違うんじゃないかと感じていた。


シュートは放物線を描いてリングに入る。これは物理の初歩の初歩、斜方投射。

美しいシュートは、リングに向かって投げるのではなくて、ボールが描く放物線上にあとからリングがフワッと現れるような、そんな感じがする。

具体的には「ボールで放物線を描いてリングの中心の空間をボールが通過させる」というイメージ。リング目掛けて前方向に投げるのではなく、極端に言えば真上に投げる感覚に近い。

これはNBAの選手のプレーを観ているうちに知らぬ間に気づいたことなんだろうけれども、実践してみるとまさにその通りで、ミドルシュートだろうが3ポイントだろうがスポスポ入った。


ドリブルで跳ね返ってくるボールすら怖がっていた子供の頃の僕。

自分が大人になってバスケットをプレーし始めて、ドリブルで敵を突破して、一方でフェイクで相手を翻弄しながらシュートを決めるなんて姿を彼は想像できただろうか?


そして僕は気がついた。僕はスポーツは苦手じゃない。

人並みかそれ以上に出来るし、そもそもスポーツが好きなんだ、ということに。


それ以来、僕はバスケットだけでなく様々なスポーツを観るようになった。

サッカーはヨーロッパに観に行くぐらい好きになったし、地元のJリーグクラブのスタジアムにも時々足を運んでいる。

テニスやラグビーなんかも放送していれば観るし、オリンピックもメジャーな競技だけでなくカヌーとかアーチェリーなどのマイナーな競技まで観ている。知らないスポーツで様々な発見があるのも楽しい。


2019年からネットラジオを始めたけれども、そこでもよくスポーツの話をしている。

ラッパーのダースレイダーさんとはエバートンがどうの、レアル・マドリードがどうのとサッカーの話を結構したし、https://note.com/mockbomb_radio/n/na9b9fce3582e

美脚トレーナーで動作分析の専門家の吉永桃子さんがゲストの回では流れをぶった切ってほぼ丸々サッカーの話をしている。https://note.com/mockbomb_radio/n/n6f31518ef795

それくらい今の僕はスポーツが大好きです。今度は嘘じゃないっす。


スポーツが苦手で、大嫌いで、運動に全く自信がなかった僕の価値観を変えてくれたのはバスケットであり、スポーツを人生の一部にしてくれたのは間違いなくコービーだ。

彼には感謝してもしきれない。


ありがとう、コービー。

今はどうか安らかに。


もくぼん

Twitter : @mockbomb


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