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君の名前で僕を呼んで

君の名前で僕を呼んで

春の柔らかい暖かさが過ぎ、もうすぐ夏かとふと気付くとき、必ずこの映画を思い出す。

映画を見る人たちはよく、自分は何を観るにしても必ず字幕派だとか言う。けどこの映画に関して私は、字幕も吹替も原作本も全て好きだ。吹替は中学の頃から好きな声優の1人だった津田健次郎さんと入野自由さんだし、この映画を観てティモシーシャラメの美しさと普段のインタビュー等の姿とのギャップにやられたし、アーミーハマーもいかにも

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ワンダフルライフ

ワンダフルライフ

井浦新さんの映画デビュー作ということで観た。
この頃も今と同じく、綺麗で落ち着いたリズムがあって、静かで、哲学者のような雰囲気を持っている方だ、と感じた。

この映画が公開された年、私は生まれた。
私が物心ついていない頃すでに俳優として活躍していた人たちが、今も映画やドラマに出ている。自分が赤ちゃんだった頃、彼らはすでに大人だった。そのことがなんか不思議だった。

小津安二郎監督作品のように真っ正

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正欲

正欲

「地球に留学しとるような感覚なんよね、ずっと」
私がはっとする台詞を、夏月はぽそっと呟いた。視聴者にとっては大事な台詞だけれど、夏月はその感覚をずっと持ち続けて葛藤し最適な言葉で言語化できるまで悩んだからこそ、何でもない言葉のように呟けたのだと感じた。
めでたいポジティブな空気感で描かれることの多いプロポーズのシーンや結婚生活は、「嬉」という雰囲気が限りなく削られていたことが印象的だった。本当に、

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白河夜船

白河夜船

「明日は午後に仕事に出ればいいんだ」
これを言っちゃう罪な男を井浦新さんが演じていて、感無量というか、生きてて良かったと思った。

岩永は地に足ついた感じがしてて、寺子の方が酔ってる感じがする、と最初は思った。女性のほうは恋してて、男性の方は典型的に不倫のつもりでいると。
先方の、って言い方がもう、ほんとこの手のこういう種類の男性が言いそうなことだなぁと感じて気持ち悪い(とても好き)。どういう理由

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「あんた」(アクターズ・ショート・フィルム2)

「あんた」(アクターズ・ショート・フィルム2)

千葉雄大監督の「あんた」。
伊藤沙莉さんと千葉雄大さんの、これ普段の様子撮ってるだけですか?ってくらいの生き生きした会話に思わずにやける。
千葉雄大さんて、最初はあざと可愛いキャラという感じで一世を風靡したけど、本人は本当はこんな感じで「てかその男はちゃんとゴムつけたんでしょうねぇ!?」とかぶっちゃけた会話して楽しそうに笑うんだろうな、と、感じて、改めて好きな俳優さんだなと思った。いや、現実は違う

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つんドルを観て考えた自分の人生

つんドルを観て考えた自分の人生

「僕から見たら、君は眩しいけどね。
 全力で生きてるじゃない。心配になるくらい。」
そのササポンの言葉が、自分自身にも深く刺さった。

なにより、安希子が自分のようだった。
焦って、がんじがらめになって、自分は大丈夫だと言い聞かせて(実際、全く大丈夫ではない時ほど周囲と自分には「私は大丈夫!」と言い切ってしまうんだよな)、でも体と心は完全には騙し切れなくて、気がつく頃にはとんでもない程疲弊している

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52ヘルツのクジラたち

52ヘルツのクジラたち

苦しくて、苦しくて、苦しくて、
本当に苦しい時は、涙が出ないな、と感じた。

胸が擦り切れるような苦しみと、頭のてっぺんを殴られたような苦しみと、胸の奥から込み上げてくるような苦しみを、消化できないうちに物語が進んでいって、映画を観た後、駅までの道を夢遊病のように歩いた。
でも、海の見える家でキナコがアンさんに語りかけるシーンは涙が溢れた。
わずかでも希望が見出せるような瞬間が、心の奥に温かく沁み

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