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色んなものを読み解こう

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古典作品などの解説や現代訳をします。
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記事一覧

読みやすくした遠野物語⑤マヨヒガ(迷い家)

ある小さな国の三浦という人は、村で一番の富豪です。
今から2、3世代前の主人はまだ家が貧しく、その妻は少し鈍感でした。

ある日、妻が家の前を流れる小川に沿ってふきを採りに行きましたが、良いものが少ないため、だんだんと谷の奥深くまで入っていきました。
すると、立派な黒い門の家がありました。
不思議に思いつつ門の中に入ると、大きな庭があり、赤と白の花が一面に咲いていて、鶏がたくさん遊んでいました。

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読みやすくした遠野物語④座敷童

古い家には「座敷わらし」という神様が住んでいることが少なくありません。
この神様はたいてい12歳か13歳くらいの子どもの姿をしています。
時々、人々に姿を見せることがあります。

土淵村大字飯豊に住む今淵勘十郎さんの家では、最近、高等女学校に通う娘が休みで家に帰ってきたとき、廊下で座敷わらしに遭遇してとても驚いたことがあります。
それははっきりと男の子の姿をしていました。

同じ村に住む佐々木さん

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読みやすくした遠野物語③山女

山の奥深くには山人がいます。
栃内村和野に住む佐々木嘉兵衛さんは、今も70歳を超えて生きています。
若い頃、狩りをしに山の奥に入った時、遠くの岩の上で、長い黒髪を梳かしている美しい女性を見ました。その女性はとても白い顔をしていました。
嘉兵衛さんが恐れずに銃を向けて撃ったところ、女性は弾に当たって倒れました。
近づいて見ると、背が高く、解かれた黒髪は身長よりも長かったです。
記念にその髪の一部を切

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読みやすくした遠野物語②1-2

遠野郷は現在の岩手県の西部に位置し、山々に囲まれた平地です。

この地域は遠野市と土淵町、附馬牛村、松崎村、青笹村、上郷村、小友村、綾織村、鱒沢村、宮守村、達曽部村の合計1市10村から成り立っています。
昔は西閉伊郡とも呼ばれ、さらに昔は遠野保とも言われていました。
遠野市はこの地域の中心地で、南部家の1万石の城下町です。
城は横田城と呼ばれます。

遠野に行くには、花巻の駅で電車を降り、北上川を

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読みやすくした遠野物語①前文

読みやすくした遠野物語①前文

この話は遠野に住む佐々木鏡石さんから聞いたものです。
1909年の2月から、夜になると彼が訪ねてきてこの話をしてくれました。
鏡石さんは特別上手に話すわけではないけれど、誠実な人です。
私も彼の話をそのまま、一字一句変えずに書き記しました。

遠野にはこのような話がまだたくさんあると思います。
私たちはもっと多くの話を聞きたいと願っています。
遠野だけでなく、国内の他の山村にも、山神や山人に関する

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色んなものを読み解こう②ダンテ『神曲』地獄篇第二歌

原文訳

日が沈み、暗い空が大地の生き物をその苦労から解放する時、私ひとり、これからの旅と憐れみの戦いに備えていた。
誤らぬ心が描き出すその苦難を、今、私は語り始める。
ミューズよ、高き才能よ、今、私を助けたまえ。
記した心よ、君の高貴さがここに示される。

「私を導く詩人よ、私の勇気がそれに耐えうるか、高き道へと進む前に確かめてくれ。
シルウィウスの父がまだ死すべき運命にあった時、彼は不滅の世

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色んなものを読み解こう①ダンテ『神曲』地獄篇第一歌

訳文
人生の旅の中ほどにて、暗き森に迷いし我が身。正しき道、見失われしは、言葉にするも難し、この荒れ野。野生の森、厳しくも強大、思い起こせば恐怖新た。その苦さ、死にも似たり、されど見出した善を語らん。

如何にして此の地に足を踏み入れしや、覚えず、深き眠りに落ちし時、真実の道、遠ざかりし。丘の麓に至りし時、終わり見せる谷、心を圧し、高く見上げ、その肩を見たり、星の光に包まれたり。恐怖、少し静まりぬ

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