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戦う飛行船(イカロス出版)【飛べ読書紹介よ。高く安く。そして心持ち舞い上がれ】

とある大都市の本屋さんにぶらり立ち寄った時に衝動買いした本。
戦記というか。
イラストが豊富で、ぱっと見で分かりやすい。
まあ、そこで買わなければ、以後決して買わないだろうな、
と思って、あえて買った。

これで第1次大戦のドイツ飛行船を舞台にした小説とか、
書こうと思えば書けるだろう。簡単なのであれば。

ドイツが作り上げた「空中に浮かぶ船」飛行船は、
第1次大戦で、鳴り物入りで夢の兵器(悪夢の兵器)として登場して、
連合国に脅威を与えた。

しかし、第1次大戦を特徴づけた他の新兵器たち。
特に、戦車(これは英国だけど)飛行機潜水艦
といった新兵器御三家に比べると、後に子孫を残していない。

飛行船は、その中盤でその威力を喪失して、
「使えない」と判断されて、
そのまま世間に忘れ去られたのであった。

飛行船の長所は、その長い航続距離と積載量だ。
初期の飛行機にその2つは足りない部分だった。
だが飛行機がその欠点を補うと、
飛行船はその脆さが目立つようになる。

英国への戦略爆撃を最初に始めたのは飛行船だが、
中盤、被撃墜が相次ぎ、爆撃は大型の飛行機に交替させられた。
陸軍では16年に飛行船部隊を解散させてしまう。
海軍はまだこだわっていたが、戦果は出せないまま、やられる役回りが多くなっていった。

海軍飛行船はより高高度を飛べるハイトクライマーに期待を残したが、
これが役に立たない。
英国の戦闘機にとってまだたどり着けない高さではあるが、
このエリアになると爆撃も監視も思うに任せなくなる。

飛行船はその魔力を失い、ゲームチェンジャーではなくなった。
性能を上げるためには巨大化せざるを得ず、
巨大化すると運用がどんどん難しくなった。
生産も減らされ、撃ち減らされていくばかりとなり。
飛行船の役割は大型爆撃機や飛行艇にとって代わられた。
その精神的指導者であったシュトラッサーの戦死後は、出撃することもなくなってしまう。

戦後も、旅客船としていくらか復活したが、
それも例の事件以降は絶えて忘却され、
過去の写真や映像記録にのみ出てくる歴史と成り果てた。

まさに時代の徒花である。

画質が粗くて申し訳ない。裏表紙です。

その飛行船が、いかに勃興して、
いかに戦い、いかに意味を失い、没落して、
歴史から退場したかということが、ざらっと書かれている。
特に「戦う」というタイトルからも、
第1次大戦における戦闘記録に集中している。
ミリオタ向けの本だ。

イラストや写真が豊富で、見るだけでも楽しい。
特に飛行船を愛用したのはドイツ海軍なので、
ドイツ海軍の制服や服装資料とかもついてくる。

また各級飛行船のクラスもイラスト付き。
時代が下るにつれて、恐竜のように巨大化していく飛行船たちが、
クラスごとにイラストで描かれている。
さらっと流すだけでもこれは楽しい。

また有名な戦闘についても、いくつかは詳しく詳細を記述している。

飛行船団全体のリーダーであった、シュトラッサー中佐。
初期のエース船長、マティ大尉。
生き延びることを重視した逃避するベテラン、フォン・ブットラー。
陸軍なのに海軍で船長をやっていたクノ・マンガー。
後に有名事故の当事者になるレーマン船長(事故の時は社長)

重要な役どころの人物についても、紹介記事が書かれており、写真付き。
もちろんすべての始まりであるツェッペリン伯爵も。

飛行船もツェッペリン社だけでなく、
シュッテランツ社、パーゼヴァル社など、複数メーカーが存在したようだ。

他にも、
孤立して戦うアフリカ植民地に補給を送るための、
アフリカ号の冒険飛行。(途中で中止して引き返した)

興味深そうなエピソード満載。
そもそも第1次大戦の話は、日本では情報自体が少ない。
かつてのように、まったくない、というレベルでは無くなったけど。
まあ、少ない。
WW1日本語文献はまだまだ貴重なのだ。

☆★

最近、飛行船は再評価されてるという。
まず浮かんでいるだけの状態になれるので、
燃料を使わずエコだという点。

やっぱり豪華クルーズ客船としては、
ビジネスポテンシャルがあるということ。

また、浮かんでいるだけ、
つまり航続時間や航続距離だけはやたらと長いので、
ただ浮いて監視しているだけのプラットフォームとしては、
意外と使えるかもしれないという点。

人工衛星と航空機の中間のエリア、
成層圏くらいで浮かばせておくなら、
飛行船くらいでちょうどいいのだ。ということを米軍が考えているらしく。
21世紀になって、再評価を受けているそうな。

もしかしたらあの巨大な姿を、また目撃することが叶うかもしれない。
(10年くらい前には、東京にもツェッペリンNTが遊覧飛行してたけど、でも無くなったな)

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