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できること、できないこと (月曜日の図書館210)

地震から避難してきた人たちは、市内在住でなくても、証明書がなくとも、館長判断で貸出券を発行してください。

新年早々に通知が来た。前に大きな地震が起こったときもやっぱり同じ通知が出たし、外国で戦争がはじまったときもだった。避難してきてすぐに図書館に行こう、本を借りようと思う人はいないかもしれない。

それでも、受け入れる体制があると、態度で示すこと自体に意味があるのかなとも思う。

地震が起こってからの数日間は友だちと連絡が取れず、安否がわからない人リストを確かめながらやきもきしていたけど、今日になってやっと返事が来た。家族で避難所にいるらしい。スマホの負担になるのを気にして、絵文字もスタンプも使わず、シンプルな相槌を打つ。

道路が通行できないから、いつそっちに戻れるかわからない、とのこと。

とりあえず目についた義援金募集には片っ端から寄付して、メルカリでいつのまにか結構たまっていたお金もそっくりつぎこんで、気持ちに一区切りつけ、仕事に臨む。

館内は相変わらずのにぎわいだった。どんなできごとが起こっても、全然関係ない本を借りに来る人がいて、年越し前と同じテーマで調べものに取り組んでいる人がいて、館内を徘徊する人、ぐずって泣きわめく子ども、個人情報を切り刻むシュレッダーの音。

そうした、世間の大きな流れとは関係のないことに接すると、少し現実に引き戻される。過度な悲観から救い出されて、具体的にどう行動すべきか?を考えられるようになる。

仕事ってすごい。

差し当たりわたしは、本を借りたい人のために貸出券を作り、座席を取りたい人のために方法を説明し、うろ覚えで言われたタイトルから正しい本を導き出すことに全力を尽くそう。

昼休み、賞味期限が間近にせまった備蓄品のクッキーを食べる。なんてことない素朴な味だけど、被災したときにこれが配られたらうれしいかもしれない。

一袋では足りなかったので、引き出しの中に入れっぱなしにしていたカロリーメイトも食べる。袋を見ると2年も前に期限が切れている。ところどころ朝日を浴びて土に還るゾンビみたいな脆さになっていたが、味はカロリーメイトだった。バランスよく栄養が摂れたかどうかは不明。

SNSを見ると被災地の図書館の様子が流れてくる。棚から落ちた本で地面が見えなくなっている写真と、臨時休館しますの文字。元通りに並べ直すのにどれだけの労力が必要だろう。

図書館で地震に遭ったらどうしたらいいかも流れてくる。棚から離れる。机の下に隠れる。電動の棚は緊急停止させる。電動書架にはさまれておせんべいみたいになる自分を想像する。

もしもここで地震が起こったら、わたしたちは市の職員でもあるから、割り振られた避難所の運営をしに行くことになる。今まで考えていなかったけど、その場合図書館は誰が開館するのだろう。

通常開館はできないだろうが、被害把握は誰かがやらないといけない。館長や役職者は残るのだろうか。よくわからない。

直後は図書館どころじゃないだろう。でも、少し経って余裕ができてきたとき、図書館を開けていられたらいいと思う。貸出はできなくても、その場で読んでもらう、もしくは自動車図書館で避難所を回れたらいい。

本を読むことで、こころも避難させることができたらと思う。

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