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月曜日の図書館 スタイル

小学生のときぶりに縄跳びをしたら感覚をすっかり忘れていて焦った。どのタイミングで自分の体を浮かせたらいいのかよく分からない。まるで飛び方を忘れた鳥のようだ。

2、3度跳ねると、内臓がゆさゆさ大げさに揺れた。

書庫の本を取りにいくとき、エレベータを使わないルールを自分に課してみる。階段も小走りで駆け上がる。取ってきた本を貸し出し、次の人の本をまた取りに行く、を何セットか繰り返していくと、ほどよい運動になる。

息切れしながらがんばってなるべく早く取りに行ってきましたアピールをしても、利用者はびっくりするくらい何の感慨もなさそうな表情で本を受け取る。

N本さんが郷土の偉人候補のおじさん情報を提供してくれる。その人は有名な靴屋さんの社長だったが、同時にレース鳩の世界でも重鎮で、オリジナルの交配種(?)まで作ってしまったらしい。

その靴屋さんはわたしでもロゴを見たことがある高級おしゃれブランドで、この土地の素朴さや垢抜けない感じとは全然似つかわしくない。と言ったら地元民のT野さんにドスの効いた声でどういう意味、とすごまれた。

レース鳩の専門雑誌にはおじさんのインタビューが載っているらしいことはネットで確認できたが、うちの図書館にはない。靴屋さんの社史もなし。残念ながら報告書としてまとめるのは難しそうだ。

更にT野さんからの追い情報によると、おじさんの孫は現在アイドルグループのひとりとして人気を博している大変なイケメンである。

こんなに濃い情報が散らばっているのに、それを束ねる術がない。

鳩はどうして同じところへ戻ってこられるのだろう。ずっと動かないでいたら、やっぱり飛び方を忘れるのだろうか。

書庫は収容冊数を少しでも多くすべく、天井&床すれすれまで本がぎっちりと並べられている。そのため本を何冊も請求された場合、背伸びしたりしゃがんだりを機敏にこなさなくてはいけない。スーツやら、ヒールやらではとても働けない。

なぜ図書館で働こうと思ったのですか、と尋ねられるととりあえず、好きな服で働けるから、と答えている。ゆったりしたワンピースやバルーンパンツは、かわいい上に動きやすい。

もちろん制服の図書館もあって、ある会社が運営する館では、動きを封じられそうなブレザーを着用している。本棚をイメージしたというその制服をデザインした芸能人は最近薬物の使用で逮捕された。

しゃがんだときなのか、スカートのすそに「禁帯出」シールがくっついていたことがある。

もっと利用者が気軽に司書に話しかけられるよう、目印になるものを身につけようという話になる。過去には腕章をつけていたこともあったが、費用をケチって長さ調節ができないものだったため、腕の細い人はずり落ち、太い人は鬱血して不評と不平しかなかった。代わりは缶バッチ?スカーフ?

わたしは、課長が地域の子ども会用に着ていた蛍光色の黄色いウィンドブレーカーが目立っていいのではないかと提案したが、人っ子ひとり賛成しなかった。

文房具屋で売られていた縄跳びは何種類かあって、子どものときに使っていた透明でカラフルなやつは100円ちょっとだったが、これは遊びじゃないのだ。トレーニング用の700円くらいする真っ黒な縄跳びを買おうとしたら、お金が足りず、クレジットカードで払って、これが大人になるってことだ、と思った。

全員漆黒のスーツに身を包んで接客するのもいいかもしれない。

vol.67

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