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明日が産まれる卵【掌編小説】

彼女には、護りたいと思う人がいました。
そして、彼女には、その護りたい人に希むことがありました。
しかし、彼女の希みは、叶えられそうにありませんでした。

彼女はもしこの希みが叶ったら、その人を護りたいと思うことをやめようと決めました。

彼女はこの希みを叶えて欲しいと、その護りたい人に訴えました。
しかし、その護りたい人は「お互いのためになる明日みらい」を投げかけました。

そう、その人自身のためでなく、彼女のためでなく、「お互いのため」を投げかけてきたのです。

彼女はその時、気がついたのです。
明日が産まれる卵を自ら踏みつぶそうとしていたことを。
そう、その人を護りたいと言う自らの気持ちを自ら、踏みつぶそうとしていたのです。

卵は踏みつぶしたら決して元に戻りません。

「卵」を護ってくれたのはその人でした。
彼女は号泣しました。
何故なら、護りたいと思っている人を護ることができなくて、そしてその人に自らが護られたことに気がついたからです。

彼女は自ら行き止まりを作ろうとしていることに気がついていなかったのです。「明日みらい」のない、「いのち」の行き止まりを作ろうとしていたのです。

彼女の「昨日かこ」と「明日みらい」は、彼女の護りたい人によって繋がりました。だから彼女は今度こそ心に決めました。

過去 きのう」と「未来 あした」を繋ぐ「いのち」を生きることを。
彼女の明日は失われませんでした。
その人に護られた「卵」から、彼女の「明日」は産まれ続けます。

だから、その人を護りたいという気持ちもずっとずっと、明日、その明日、またその明日・・・と繋がっていくのです。

その人を想って泣くことも微笑むわらうこともできる明日みらいがある彼女は幸せでした。




明日は「卵」から産まれる。この発想は、劇団「少年社中」第38回公演【DROP】から得たものです。



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