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ドラマ「お別れホスピタル」〜死ぬってなんだろう

苦しくなるほど胸を締め付けられたドラマ「透明なゆりかご」につづき、原作:沖田×華さん、脚本:安達奈緒子さんが再びタッグを組んだドラマ「お別れホスピタル」
前作は命の誕生と死を見つめる小さな産院が舞台だったが、今回は末期がんなど死と向き合う患者とその家族を見つめる療養病棟が舞台だ。

主人公の辺見歩(岸井ゆきのさん)は、療養病棟で働く看護師。
病院では吸えないので、毎朝出勤前に海辺で車を止め電子タバコを吸っている隠れ喫煙者だが、病院では明るく溌剌とした様子で立ち働いている。
ヘビースモーカーの末期ガン患者である本庄(古田新太さん)と、担当になった歩は、初めて海辺で会った時から、喫煙者同士の仲間意識のようなものを感じていたように見えた。
本庄はそれまでの人生、全て自分で決め、好きなように生きてきたと言う。
「オレこれからどうなってゆくのかな…」
「なんだかんだ生き延びるんじゃねえかって思ってんだ。奇跡がおこったりしてさ」
そう言っていた本庄が、あっけないほど唐突に、自ら人生のピリオドを打ったことに、いきなり殴られたような衝撃を受けた。
「あんな笑って話してたのに…タバコだって1本吸って、やべえって戻るつもりだったんですよ絶対」
屋上には、本庄が最期に吸った煙草の吸い殻が、逡巡したように3本残されていたところもリアルだった。
担当医だった広野(松山ケンイチさん)と飲み屋で鉢合わせた歩は、本庄に怒っていること、悔しいことを、互いに打ち明け合う。
本庄は死の直前、何を考えていたのだろうか…。
誰しもが本庄のように、ふとエアポケットに落ちてしまう瞬間があるのかもしれない。

歩には、中学時代のいじめが原因で摂食障害になり自傷を繰り返す妹・佐都子(小野花梨さん)、家に引きこもり暴れる妹にずっとかかりきりの母(麻生祐未子さん)がいて、歩はそんな家族から逃げるように一人暮らしをしている。
「家族が一番とかって、ちょっと脅しっぽいですよね」
長いあいだ生まれ育った家族のことで悩まされてきた自分としても、妙に胸に刺さった歩の一言。
そんな自身の背景もありながら、患者の死とその家族に向き合う歩を軸にした物語に、回を重ねる毎にどんどん引き込まれていった。


第2話「愛は残酷」での、末期ガンの夫の看護疲れで同じ病室に入院している今日子(高橋恵子さん)の物語も、強烈だった。
8年も夫を在宅看護し、夫への献身的な姿に周囲からも愛に溢れた妻、理想の夫婦と思われていた今日子だが、本心ではずっと夫のことが嫌いだったのかもしれないこと、夫にとって自分は快適に暮らすための手足としか考えられていない、そんな夫から解放されて一人になりたいと願っていたことに、彼女は気づいてしまう。
夫の最期に今日子が「これでもういいでしょ。早く逝ってください」と、耳元で囁くシーンに戦慄した。
「君じゃないとダメなんだ、っていう言葉は呪いだったのかも。52年間、愛してたんだか、憎んでたんだか、わからない」と語る今日子に、夫婦の一筋縄ではいかない複雑な感情を見せつけられた気がした。
末期ガン患者とその家族の関係は、心温まる話ばかりではないところも、真に迫っていた。

他にも、夫の延命治療を望んだものの本当にこれでよかったのかと悩む妻(泉ピン子さん)、植物状態で寝たきりの娘に10年付き添っているシングルマザーの寛子(筒井真理子さん)、地元の資産家で誰にも自分の財産は渡さない死んでたまるか!と叫ぶ池尻(木野花さん)、元は厳格な教師だったヨシ(根岸季衣さん)は認知症になり豹変し若い男性看護師に娘のような恋心を抱きべったり甘えている。
歩の同僚看護師・涼子(内田滋さん)は自身もガンを発症し、シングルマザーであるため息子の将来を思い煩う。
療養病棟では、様々な病状の患者と事情を抱えた家族、看護師たちが、日々を過ごしている。


歩は、療養病棟についてこう語る。
"ここは、一度来たら元気になって退院してゆく人は、ほぼいない。そういう場所だ"
"でも私たちは、死ぬことの手助けをしているわけじゃない"


どの回もとても中身が濃くて、正直、全4話では全く足りない、短すぎると思った。
もう少し観たい、命について死について考えたいと思わされた作品だった。


"自分で決めるのが一番いい?そうとも限らないと思う"
"私は死ぬ時、どんな風に死ぬのだろう"
"死ぬってなんだろう"

歩は問いかける。

それはそのまま、私自身もずっと自分へ問い続けていることだ。






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