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かかりつけ医もお金で買う時代?

先日新聞でこんなニュースを読み、衝撃を受けた。

アメリカでAmazon prime利用者向けに「かかりつけ医」サービスを月9ドル(約1360円)で提供するというもの。
「かかりつけ医」とは、体調不良などの時などにまず相談に応じる医師のこと。
会員になると、24時間いつでもスマートフォンのビデオ通話などで遠隔診療が受けられるほか、追加の料金を払えば全米各地のワンメディカルの診療所で診察が受けられるそうだ。
風邪をひいたとき、お腹が痛くなった時などにこれまで近所の診療所を受診していたのが、定額サービスで医師の診察を受けられるようになる。

確かにこの方が効率性や利便性に長けているし、あちこち診療所を開設するより低コストで済む。診療所を探す手間もなく楽だ。
時間外診療にかかる医師の負担軽減にもなる。
出てくる医者もゆくゆくはAIにとって代わられ、より正確に診断・治療ができるようになる。
かかりつけ医業務について資本主義を追求したモデルなのだろう。
アメリカでは、お金でかかりつけ医を手軽に買えるようになった。

今かかりつけ医として働いている医師にとって脅威の存在となりうるこのサービス。
私はニュースを読んで「ははあ、医療もここまで来たか。」とうなってしまったが、今のかかりつけ医業務を網羅できないだろうなとも思った。
第一、高齢者相手には成立しないビジネスモデルだ。高齢者、特に後期高齢者の多くがデジタルツールが使えず、使えたとしても自分の症状を正確に表出できない。彼らに病状を理解してもらったり納得してもらうために何度も話す必要もある。時には彼らの耳元に大声で。

それ以外に、日々診察室を訪れる患者はそれぞれ異なる事情を抱えている。
同じ病気でも、その人の経済状況や家族関係、精神的状態などに合わせて提案する治療を変える必要がある。
かかりつけ医はそういった患者の背景を気にしつつ、診察室に入ってくる彼らの顔から心の状態を感じとる。不安そうなら安心させる言葉を考え、苛立っている時は傾聴し、不幸が降りかかった時は同情し、涙ぐんでいたら辛さを吐き出してもらい、安心してもらえるよう気を配る。
逆に、こうした配慮ができないかかりつけ医は今後淘汰されるということだろう。
私は時にはユーモアを交え、笑顔をお土産に持って帰ってもらうことも忘れないようにしている。

医師も人間だから、初対面の患者さんより毎月顔を見せてくれる馴染みの患者につい力を貸したくなる。
患者は、自分の身体のために他人が考え動いてくれることに安心し、他人からの「共感」に癒される。
日頃からの医師-患者関係の構築がより良い医療を提供でき、患者の不安払拭に繋がると私は考えている。

最近は日本でも、電話一本で往診してくれるサービスが普及しつつある。
コロナ禍は大変活躍してくれたし、若くて日頃元気な人なら一回の対応で済むだろう。
しかし問題を多く抱えた患者を一度の診察で片付けるのは難しい。患者を多面的でなく「点」でしか診ない診療では問題解決できない。
現実に、困った時だけ何度も救急車を呼ぶ患者が存在する。救急外来で問題解決しないから、彼らはまた同じ理由で救急車を呼ぶのだ。

かかりつけ医にとって日々の診療の醍醐味は、患者から信頼され、頼られ、彼らの力になれることだと私は思う。
患者側も毎回違う医師が出て来るより、何かあった時に頼れる一人の医師がいた方が安心だと思うのだ。
「先生の顔を見ると、安心する。」
「先生がいてくれて良かった。」
私にとって最高の誉め言葉だ。

何でもお金で評価され、お金で買おうとする時代。
お金で買えない「より良い人間関係」は今後、面倒で古臭いと淘汰されていくのかもしれない。
それでも私は、効率が悪くても患者さんが安心して生活できるよう、診察室で患者さんを待ち続けたいと考えている。


※冒頭写真は記事とは無関係で、神宮外苑から見えるスカイツリーです。目の錯覚だと理解しつつ、約9km離れているのにスカイツリーが何も邪魔されず異常に大きく見える光景にいつももやもやしています。

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