マガジンのカバー画像

ぼくのPoetry gallery

164
かつて野に棲んだ詩人の残骸をここに記すという悪い趣味です。
運営しているクリエイター

記事一覧

詩157「雨の散歩道」

「雨の散歩道」

雨は人を急き立てることがある
21世紀美術館から鈴木大拙館へのアスファルトの硬い道程も
街の賑わいとは裏腹に創造のイカロスは飛ばず

雨は人を急き立てることがある
傘を濡らして道をも濡らす

金澤詩人 20号掲載
Anywhere Zero Publication© 2023
Hiraya Akizuki© 2023

詩156「夏の山脈」

「夏の山脈」

碧(みどり)を碧(あお)とも呼べるのは
山並みの万緑が空の青さに溶けて行く
そんな夏の景色の賜物だろうか
熊谷守一が描いた「夏」の思想に
その答えがあったと思う

金澤詩人 20号掲載
Anywhere Zero Publication© 2023
Hiraya Akizuki© 2023

詩155「ひとこと、みこと」

「ひとこと、みこと」

言葉を離すべきじゃなかった
届かなければ伝わらない言葉だというのに
アネモネの花ほどの価値があったというのか
ぼくは負けたくない一心で
放り投げた言葉について話せずにいる

金澤詩人 20号掲載
Anywhere Zero Publication© 2023
Hiraya Akizuki© 2023

詩154「言葉の無い正解」

「言葉の無い正解」

幻想を築くには言葉を組み立てよ
ありもしない正解を世界にして我々を導き入れよ
現実から回避した者たちは逃げ出すことなどない
言葉の煉瓦をひとつひとつ積み重ねた堅牢な城でも
たった一言で崩れ去ることさえあるだろう
どんな世界も脆くそびえ建っているものなのだ

命は一つでも言葉は無数の星であり
危うい戦場を生き抜く不確かな言葉たちは
元素も曖昧な世界の蓋でしかない

かつて言葉の

もっとみる

詩153「旅人は待てよ」

「旅人は待てよ」

帰らぬ旅人が帰ってきた
消え失せんと望むはうつつ
記された足跡は永遠となって
誰かが望めば
赤い詩集の果てから帰ってくる
むしろ難しいことなどなくて
場所も時間も選ぶこともなくて
瑠璃色を纏った言葉が手紙となって
我々のもとに戻ってくる
理屈などはどうでも良いと思えた時には
あのレインコートを羽織った旅人が見える
失われた時を知る豊穣の女神は歌い
この宝石を南の風で濡らすことだ

もっとみる

詩152「メテオの邂逅」

「メテオの邂逅」

その契りは真夜中に起こる
創作の神と偽って飛来する酩酊のメテオ
言葉には三神が宿るというが
踊る文字はさながら呪文か魔法陣と化し
たちまち言葉が熱を帯びて送り出す
有無を言わせぬ契約は創造の深みへと魂を突き落として
それを灼熱の温度まで高めてしまうだろう
今まさに月に冴える深夜の創作は疾走した
まだ見ぬ失われた創造性を探し出すかのような快感こそが
我々を陥れようと目論む牧神かサ

もっとみる

詩151「異彩」

「異彩」

異才の奇祭は胡散臭い
委細は一切言い出さないまま
雲散霧消な韜晦術で
まくのは煙かそれとも餌か
倒壊する論理には追い付けないが
それでも偉才と褒め称えられ
叩いて消えることさえない
ただ居るだけでも様になるので
冴えない無様な成りでも神々しい
嘘と誠が混合し インサイドで競り合って
玉虫色の魂の妖しい彩りは雄鶏のアシメントリー
色とりどりの折々のまとまりは始まりで終わり
つまりはあとの

もっとみる

詩150「白銀の月」

「白銀の月」

帰り道の夜空を見上げると
ぼうっと冷たく光る月が滲む
あの気高く遠い世界なら邪な迷いも凍てついて
すべてはお前の想いひとつだ
そう突き放される気がしたら胸が締まった

Masanao Kata©️ 2023
Anywhere Zero Publication©️ 2023

詩148「紙で切った」

「紙で切った」

血も出ない指先の傷口は
確かにぱっくり薄く切れていた
景色が変わった違和感のような些細な痛みから
やがて来訪する刺激に覚えが始まる
涙も出ない心の無慈悲さは体との蟠り

Masanao Kata©️ 2023
Anywhere Zero Publication©️ 2023

詩147「呼吸」

「呼吸」

息を吸う
この部屋には一人
息遣いに耳を澄ませば
その音を吸い込んで
部屋の中は二人分

Masanao Kata©️ 2023
Anywhere Zero Publication©️ 2023

詩146「浮遊」

「浮遊」

傘を差せば宙に浮くような世界では
誰しも四角い丘に佇んで
冷たい夕日が沈むのを待っている
この世界は白々しい
白夜は琥珀色をまとった白昼夢か

Masanao Kata©️ 2023
Anywhere Zero Publication©️ 2023

詩145「本を読む」

「本を読む」

人間がこれまで本を読んで来た
その姿の美しさを知った
幻想に迷い込む真剣な眼差し
知性が洗練される渦巻く瞬間を垣間見て
人が龍になるその時だと知る

Masanao Kata©️ 2023
Anywhere Zero Publication©️ 2023

詩144「階段」

「階段」

階段の一番下の段に腰掛けて
八雲の『怪談』を一話読むごとに上がってみた
はて、随分と読み進めたが踊り場に差し掛からない
本から目を離してみようとすれば
寝床で目覚める夏の冷や汗

Masanao Kata©️ 2023
Anywhere Zero Publication©️ 2023

詩143「檸檬」

「檸檬」

爽やかな酸味を欲する酷い暑さの日だ
涼を求めて書店へと駆け込んでみた
かつて梶井は書店に檸檬を置いたが
今や書店は梶井の『檸檬』を置いている
弾けた『檸檬』に青葉茂る桜の樹の下で何想うか

Masanao Kata©️ 2023
Anywhere Zero Publication©️ 2023