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なぜ、若いうちの苦労を避ける傾向に我々は嘆くのか?

 最近、Twitterを流し読みしていると、若いうちに進んで苦労しようとする人がいないといった嘆きが目につくようになりました。実際のところ、どうなんでしょうか。
 下の図は、日本生産性本部[1]による、働くことの意識調査結果のうち、「若いうちは進んで苦労すべきか」と言う問いに対する回答のトレンドです。平成23年度から急激に「苦労すべきだ」と回答した割合が減り、「好んで苦労すべきではない」と回答した割合が増えていることがわかります。

若いうちの苦労に魅力がない

 筆者がフォローしているTwitterアカウントの方は、そのほとんどが医療従事者であるという偏りがあります。したがって、上記の結果がそのまま反映されるとは言い切れません。しかし、どうやら、若いうちに進んで苦労しようとする人が減っていることは確からしいようです。

 では、若いうちに進んで苦労しようとする人が少ないと何か都合が悪いのでしょうか。その答えは、年配者が若い人にどのような苦労を経験させたいと考えているかを推測することが有用と感じます。筆者自身が得た経験を踏まえて考えると、「① マネジャー(管理職)としての自覚やスキル」と「② 専門職としての知識や技術」の向上が期待されるものがそれであったように感じます。それは、部署横断的な調整やリーダーの経験、学会発表や論文の執筆などの機会を与えられた時に苦労したと感じたためです。

 下の図は、2019年8月27日のパーソル総合研究所[2]のニュースリリースから引用した横棒グラフです。左側の図に注目してください。これによると、非管理職である人を対象とした調査から、日本は管理職になりたい人の割合が21.4%で、14の国・地域で最も低かったことがわかります。逆に言えば、日本では積極的な管理職志向がない人は78.6%で、出世意欲も最も低いことがわかります。 

管理職になりたくない

 つまり、筆者が推測する「年配者が若い人に経験させたい苦労」のうち、「① マネジャー(管理職)としての自覚やスキル」の向上が期待される機会を多くの人がそもそも望んでいない傾向があるということになります。
 世界中の全ての企業において、持続可能性を高めるために共通して必要となることに「世代交代」があります。この世代交代を実現するには、管理職を担う次世代の育成が求められます。積極的な管理職志向がない人が多くを占める状況の中、どのように管理職を育成するか。こうした難題に年配者は嘆いているのだろうと推測します。これに対し、米国の調査会社のガートナー[3]は、2024年までに管理職が行う日常業務の69%はAIに置き換えられるだろうと予測しています。しかし、いずれにしても、現時点では管理職を担う次世代の育成は避けられないと感じます。

 では、筆者が推測する「年配者が若い人に経験させたい苦労」のうち、「② 専門職としての知識や技術」の向上が期待される機会についてはどうでしょうか。
 下の図は、2019年8月27日のパーソル総合研究所[2]のニュースリリースから引用した表です。これによると、勤務先以外での学習や自己啓発について、日本は「特に何も行っていない」が46.3%で、14の国・地域で最も高いことがわかります。また、2位のニュージーランドと比べて24.2ポイントも差があり、断トツで自己研鑽していないこともわかります。もちろん、対象に偏りがある可能性もあります。しかし、どうやら、勤務先以外で自己研鑽する人も減っていることは確からしいようです。

自己啓発をしない

 そうすると、「② 専門職としての知識や技術」の向上が期待される機会については、勤務先でいかに効果的かつ効率的に提供するかが重要となると考えます。しかし、勤務先でのこうした機会の提供は、生産性とトレードオフとなる要素もあります。こうした状況の中、どのように専門職としての知識や技術を高めるか。こうした難題にも年配者は嘆いているのだろうと推測します。

 なぜ、若いうちの苦労を避ける傾向に年配者は嘆くのか?
 それは、世代交代に必要となる管理職としての自覚やスキルの向上が期待される機会を多くの人が望まないこと。そして、専門職としての知識と技術の向上が期待される機会を生産性とトレードオフで提供しなくてはならないことの2点ではないかと感じています。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(参考)
[1]日本生産性本部:平成31年度 新入社員「働くことの意識」調査結果.<https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/R12attached.pdf>,(参照2021-12-21)
[2]パーソル総合研究所:日本の「はたらく意識」の特徴を国際比較調査で明らかに国際競争力低下の懸念。日本で働く人の46.3%が社外で自己研鑽せず.<https://rc.persol-group.co.jp/news/201908270001.html>,(参照2021-12-21)
[3]Gartner:Gartner Predicts 69% of Routine Work Currently Done by Managers will Be Fully Automated by 2024.<https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2020-01-23-gartner-predicts-69--of-routine-work-currently-done-b>,(参照2021-12-21)



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