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インド物語-デリー⑧-

いつの間にかバッグに入っていた瓶について宿の受付の男に聞いてみた。こういうのをどこかで見たことはない?彼はその瓶を手にとって上からみたり横から見たりした。

この蓋はどうやって開けるんだと彼は聞いた。

分からないんだと私はこたえた。

この宿でも、そうでなくても、こんな瓶は見たことないと彼は言った。それで地元の工芸品に詳しい人をしらないかと聞いてみたら、路地のほうに雑貨屋があるからそこに行けばいいと教えてくれた。

話を聞いてみると、それは昨日迷い込んだ路地の雑貨屋だった。青と白の棒が螺旋状にデザインされた看板をだしていて、まるで日本の床屋によくあるパーラーみたいだったので、その店のことは覚えていた。

昼食にゴールデンービリヤニを食べてから行くことにした。そのレストランは屋上にあって、チャイを飲みながらオールドデリーの街を見下ろせた。

天気の良い日には通りを歩く人を見ていておもしろいのだけど、雲に覆われた今日は街もどんよりして何もおもしろくなかった。

店内には赤いベースボールキャップをかぶったウェイトレスがいた。

デリーの鉄灰色の空を背景に絵具でも落としたみたいに赤いベースボールキャップが目覚めるばかり鮮やかに浮き立って機敏に動き回っていた。

そのウェイトレスはがっしりとした肩に薄いヴェールみたいな生地の白いシャツを着ていた。下に着た黒いタンクトップが透けて見えていた。スラックスと同じ色の前掛けがウエストの高い位置で絞められていた。スタイルがいい。

帽子だけが不自然だった。まるで山の奥に打ち捨てられた真っ赤な古い車が突然視界に入ってきたみたいだった。

それでしばらく彼を目で追っていた。皿を下げて水を取り替え、客に微笑んで会釈する彼のことを見ていた。ほんとによく働く男だった。どこにでも働き者はいるものなんだと感心さえした。

よく見ると赤いキャップにはロゴが入っていた。

アルファベットで一文字。なんだかどこかで見たことのあるデザインだった。

サポートしていただいたお金で、書斎を手に入れます。それからネコを飼って、コタツを用意するつもりです。蜜柑も食べます。