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ぐっちは「天津飯!」と叫び、慎吾は黙々とバッティング練習をする【6/12楽天戦⚫️・ファーム巨人戦○】

慎吾はそこで、一人黙々とバットを振っていた。

ジャイアンツ球場は、室内練習場が見学できるようになっていて、上から覗き込むようにしてバッティング練習を見ることができる。こんな贅沢なことなかなかないけれど、その見学通路にはなぜか誰もいなくて、一人で慎吾のバッティング練習を見ていた。

一球一球、ものすごいスピードで、慎吾はバットを振る。こちらに伝わってくるその気迫がものすごくて、私は写真を撮ることもできなかった。手軽にスマホをそちらに向けるなんてしちゃいけない気がした。なんだか見ているもの申し訳なくて、屋内なのにサングラスをかけた。

プロが、自分と向き合う、神聖とも言える空気がそこにはあった。

練習場から出るときに、宮本くんとすれ違った。宮本くんは、こちらをちらりと見て「こんにちは」と言ってくれた。二軍の球場ならではの、贅沢な空間だ。(そしてジャイアンツ球場は、二軍球場とは思えない豪華球場だ)(いやなんなら神宮だって選手とすれ違うことはあるわけだけれど)

球場では、ぐっちがみわちゃんだか松本くんだかに、「天津飯!!」と、叫んでいた。一体なにごとだ。なぜ天津飯なんだ。全く意味がわからない。

でも選手の声が聞こえる距離感が嬉しくて、何よりぐっちがそこで動いていることが嬉しくて、とりあえず私は周りのおじさんたちに混じって「よなよなエール」を飲んだ。おいしい。

オフはもちろんぐっちがどこにいるかもわからなかった。五島列島での消息情報を聞いては五島列島に思いを馳せていた。それ以上に、死球で離脱してからの一ヶ月半はもっと長く感じた。もはや幻の人物なのじゃないかと思い始めていた。

それなのに今、お山の中のジャイアンツ球場で、ぐっちは天津飯!と叫ぶ。そしてボールボーイ&ガールに、「よろしく!」と声をかける。ついでに上田と一緒にそのボールボーイ&ガールたちと談笑する。私も生まれ変わったらジャイアンツ球場のボールガールになろうと心に決める。

みんな、そこで笑いながら、それでももちろん真剣に、野球と向き合っている。

たてさんは、その二軍で調整した上で、今日、一軍のマウンドに上がった。

四球を出した時、たてさんはとても申し訳なさそうな顔でムーチョを見た。ムーチョは、大きく頷いた。二人の気持ちが、画面から伝わってきた。二人で、このバッテリーで、勝ちたいと思う、その気持ちが。

でもたてさんは勝てなかった。そしてヤクルトも、勝てなかった。

切ないなあ、と私はつい思う。

だけどそう思いながら私は、昼間のジャイアンツ球場のことを思い出す。

そこでは若手とベテランが、必死に同じ場所を目指して戦っていた。スマホのカメラを向けることさえ憚れるくらい、真剣に。

そこには、「切ない」だなんて感じているような、そんな隙間はなかった。慎吾が、真剣にバッティング練習を続け、ぐっちが「天津飯!」と叫ぶ、そのどこに、悲壮感にくれている暇があろうか。そんな暇があるなら天津飯食べて寝た方がいい。

だから私は今日もやっぱり、このチームをここで、見守るしかない。たてさんがまたそこに立てるように、ぐっちが神宮で、誰かに「天津飯!」と叫べるように。

負けても負けても、物語は続く。私はそれを、見守っていく。おいしいビールを、今日だって飲みながら。そろそろ勝ってビールが飲みたいなと思いながら。


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