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D2Cブランド店舗のショールーム化と拡張現実(XR)の没入空間について

XRとは

ヘッドマウントをかぶり仮想現実に没入するVR(Virtual Reality)AR(Augmented Reality)はポケモンGOでおなじみの通りスマホをかざした空間にデジタルを重ねるもの、MR(Mixed Reality)は複合現実と言われ、ヘッドマウント内で現実空間とデジタルを重ねるもの。SR(Substitutional Reality)は代替現実と言われ、見えている空間を疑似現実にさしかえるもので聴覚と視覚以外の五感を拡張する研究も進んでいます。
XRとはこれらを総称したものです。

今回は、オンライン上での顧客獲得の空中戦となるD2Cブランドのために、オフラインでの「ブランドを体現した空間での探索」としてXRの空間設計が有効であることを推したいので事例を元に紹介します。

XRの没入型のテクノロジーは急成長しています。
2022年にはAR/VRのヘッドセットだけでも3倍以上の規模が予想されています。現在はゲーム業界が主流ですが、仕事、教育、生活の一部にも浸透していくかもしれません。


壁三面と床のプロジェクションか、大型ディスプレイを用いた没入型の体験は、このようなエンターテイメントの場では良く使われるようになっています。

最近ではカンファレンスや、Netflix番組のプレゼン型の演出にも用いられるようになってきました。

日本にもVR専門のアミューズメント施設がありますが、NYにもMETAによる結構大掛かりな体験施設Arcadia Earthができています。


台頭するD2Cブランド店舗のショールーム化

買い物がオンラインになった今、本来店舗を必要としないD2Cブランドが店舗を構える役割は「ブランド体験を濃密にする場所」となっています。

いずれも顕著なのは、オンラインで商品が手に入るので、オフラインのリアル店舗は世界観づくりに注力していて、単純に小売ではなくライフスタイルブランドとして「体験」を重視しています。

アパレルブランドのZARAも2018年にアプリでの購入を促進するためインスタレーション展示のある、商品の展示と試着に特化した店舗を試験運用していました。

①オンラインでブランドを知る
②インスタ映えする店舗に訪れ、実際の商品に触れてファンになる
③SNSでシェアする

(拡散されてブランドを知ったユーザーが①へ)

というカスタマージャーニーを描いて、結果的に費用対効果を得られるようです。


glossier
評価額が10億ドル以上でユニコーン企業と言われ、オンラインで大人気のコスメブランドGlossierも、実商品を試すためのフラッグシップを作りました。インスタ映え空間でもあるため、顧客層が拡散してブランド認知が広がる仕掛けになっています。


Gentle Monster
韓国のメガネブランドGentle Monsterは、D2C的ではないですが、オンライン販売に強く、店舗が商品推しではありません。
まるでアートギャラリーのようになっており、世界で20店舗(韓国だけではなく、NY、ロンドン、シンガポール、ドバイ、中国など)で個性的な店舗を展開しています。

「たしかにはじめは費用対効果を懸念していた。
でも、結果的には店舗のおかげでブランドを広めることができた。
われわれは広告をほとんどやらないので、空間こそが最大のブランディングの場所。
お客さんが空間に長くいればいるほど、印象に深く残り、今後のオンラインでの売り上げにもつながる。
また体験を人に伝えるという2次拡散も起こる」

韓国発アイウエア「ジェントル・モンスター」が仕掛ける“美術館店舗”はどうやって生まれた?


Casper
NYのマットレスのスタートアップCasperは、2年目で売り上げ約100億円を達成したブランドで、これまで約250億円を調達しておりユニコーン企業予備と言われています。
そんなCasperが昼寝体験のできるショールーム兼仮眠店舗としてThe Dreameryを作りました。
単なるマットレスのお試し店舗に留まらない、Casperがあると叶えられるライフスタイルを提示する世界観を作っています。

参考:
マットレス会社Casper「睡眠」を販売!NYに昼寝ラウンジDreameryオープン


NIKE
店舗への予算の掛け方や、ブランディングの戦略が飛び抜けているのでD2Cではないですが、オンライン販売(EC、専用アプリ)に強いブランドの店舗の効果的な使い方の事例として紹介します。

Nikeの上海フラッグシップは大型のインスタレーションを設置。


こちらはNYのデザインスタジオがhotelcreative手がけた上海のNIKE店舗。

こちらは北京のNIKE店舗。欧州に3拠点を置くRosie Leeが設計。


Sephora
Sephoraはイベントではインスタ映え空間「アイスクリームミュージアム」のような形でコスメフェスティバルを実施しました。


ホテル経営者Ian Schragerがクリエイターと作ったNYタイムズスクエアのビルボードもアート的表現とビジネスの融合。

ちなみに最近は、アイスクリームミュージアム人気はひと段落し、家族で楽しめるColor Factoryという商業系インスタレーション施設も人気のようです。


ブランドに没入できる空間への期待

冒頭に書いたとおり、XRによって現実そのものの境界線がぼやけてきています。抽象的な表現ですが、体験者を包み込むような「全感覚的体験」ともいえます。
SF作家のウィリアム・ギブスンによるサイバースペースという概念が生まれてから、四半世紀以上過ぎましたが、映画の「マトリックス」や、日本のアニメによって表現が拡張し、ファンタジーだったものは今や現実に落とし込まれました。

バーチャルは現実と対立するものではなく、現実を拡張していきます。(深く語ろうとすると認知科学にも及びます。)

もっとも体験拡張の実装が進化しているゲーム業界において、ゲームの設計方針主導で作られた、決められた物語を巡る分岐型やシュミレーション(一直線の連続性)を経て、体験設計そのものに双方向性が出てきたことから、無数の予測不可能な「オープンワールド」をユーザーが探索するようになっています。

これにより展開が読めない「いま、ここ」から遊離した面白さが生まれます。これは、人の感覚に訴えるXRで叶えらるかもしれないブランドの世界を探索させる体験のストーリー設計にも当てはまります。

シンプルに洗練された空間設計というものからはみ出したXR空間にこそ、ブランド体験の一歩先の在り方があるのではないかと考えています。


没入空間の種類

実例が少ないため、メディアアートも例にもあげます。
商業とアートの住み分けは議論が起きる難しいところですが、表現の前例がないため、あくまでも参考としてご了承下さい。


壁や床の役割を使い分けたもの


透過ディスプレイを使ったもの


床の没入
Miguel Chevalier: Onde Pixel, UniCredit Pavilion, Milano


触れて連動したり、スポーツ系の双方向性の強いもの


スマホ連携


建物全体を使ったもの


開発が難しい点

成功しているブランドが取り入れているショールーム化ですが、没入空間は決まったメソッドや、テンプレートで設計できない点があります。

・机上で想像できない体験のため、開発チームのリテラシーが必要。

・開発チームの座組みもシンプルではありません。
 -フロントエンド/バックエンドエンジニア
 -没入を促すクリエイティブディレクション
 -インタラクティブな体験を生み出すクリエイターたち
  (ビジュアルデザイン、CG、モーショングラフィックス)
 -(場合によっては)ハードウェアエンジニア
 -スクリーンからはみ出たUXができる設計者
 -空間施工者

・開発にあたって、実際の空間を使ったトライ&エラーをするための場所が必要。

このような身体性/空間デザイン/体験のストーリー/テクノロジーという複雑で新しいものづくりでは、要件定義をワークショップ形式で作り上げてことが多いです。

D2Cブランドをオフラインで知る接点として、XRでのオフラインでしか味わえない体験づくりを推していきたいと思っています。


Twitterやってますので、よかったらXRについて語りましょう。
https://twitter.com/nakama_desu

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