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身震いした欲望の深さ、本能的な目覚め! <噂の女>

噂の女 著者:奥田英朗さん

糸井美幸という人。

最初から最後まで読み終えると、昔からの知り合いのような気分になってしまう。
この人の手口は読めば読むほど恐ろしくもあって、近づきたくないと人No.1であるが、このように生きるしか方法はなかったのかと思いがふつふつと湧き上がり、そう言えば近年「魔性の女」と呼ばれた似たような事件があったことを思い出した。

「中古車販売店の女」から始まり、「スカイツリーの女」まで10編あり、最初はかわいらしい側面が垣間見えるがこの時から愛人という噂があり、「麻雀荘の女」では次の人を狙い、虜にさせるという奇異な特質が露わになっていく。

誘惑、睡眠薬の入手、ヤクザの弟を使ってと、次第にエスカレートしていく中で、糸井美幸にかかわる様々な人が抱える現実を見事に映し出している点に興味が惹かれる。

主人公は糸井美幸であるが、噂の女というタイトルのとおり、他者から見た糸井美幸が書かれていて、直接的に関わる人もいるが、人から聞いた話で知る人もいる。
人の噂は75日と言うが、中学や高校の同級生、短大の友人などは彼女のことをなんとなくでも覚えている。
それが本書の鍵でもあり、後半には一気に事件性が増す。

糸井美幸によって人生が変わる(人生が狂う)人もいるが、彼女によって希望を抱く人がいることも書かれている。
ここが「人生はわからない」という謂れ。

人間の欲望の深さと本能的な目覚めを十分感じたら、非常にのどが渇いた。



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