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【料理エッセイ】横須賀で海軍カレーを食べて、ブラジャーを飲んできた

 友だちが横須賀に引っ越した。コロナ禍のテレワークで暇になり、趣味を探した結果、釣りにハマってしまったらしい。うみかぜ公園という釣りの人気スポットに毎日通うため、移住を決意したというから驚きだ。

 遊びにおいでよと誘われて、釣りに興味はなかったけれど、横須賀の海軍カレーは一度食べてみたかったので、京急でびゅわんっと向かった。

 調べてみると、海軍カレーのお店はたくさんあるらしく、どこへ行ったものか悩んでしまった。最終的にLIVE JAPANのまとめから、「ご主人の島森さんはなんと、よこすか海軍カレーを認定する委員の中心人物!」という文言に惹かれ、WOOD ISLAND Curry Restaurantに決めた。

 朝が苦手なわたしなので、結局、横須賀中央駅に到着したのは13時を過ぎた頃。お昼時を少し外れていると思ったけれど、店舗のある米軍基地前にはそれなりの列ができていた。

 とりあえず、最後尾についてみると、中から店員さんが顔を出し、わたしたちが最後ということで、終了のプレートを持ってほしいと頼まれた。

 ネット上には夜まで営業していると書いてあるけれど、いまはいろいろあってランチ営業のみなんだとか。その後、新たにやってきたお客さんに事情を説明してあげる。みんな、残念がっていた。申し訳なさとそんな貴重なカレーがギリギリ食べられる喜びと、複雑な思いを抱きつつ、でも、ラッキーって感情が勝ってしまって、やたらとテンションが上がった。

 30〜40分経ち、店内へ。ビーフ、チキン、ポークと種類がたくさんあって迷ったものの、せっかくだし基本がいいかとビーフを注文。

 カレー、サラダ、牛乳の三点セットが運ばれてきた。

 なんでも、牛乳とサラダは必須なんだとか。戦時中、ビタミン不足が原因で起こった脚気の対策として、海岸ではこれらの組み合わせで栄養を補っていた習わしがあったようで、カレーだけでは海軍カレーにならないそうだ。

 さてさて、そんな話を聞くと、サプリメントのような食事で味は二の次みたいに感じてしまうが、食べてみたら、そんなことは全然なかった。

 なんというか、しみじみと美味しい!

 系統としては家庭的なカレー。でも、自分で作ったらこうはならない。同時に、この味わいが日本全国のおかんに伝わっていったのだと思うと感慨深い。母なるカレーと言うべき存在で、はじめましてなのに懐かしかった。

 加えて、サラダが素晴らしい。特に三浦の大根で作ったなますの嬉しいこと、この上なし。シャキシャキ、甘くて、爽やかで、永遠に噛んでいたかった。

 紙パックの牛乳を久々にチューチューしてみれば、小学生の頃、給食でお代わりしていた遠い記憶が蘇ってきた。背を高くするのに効果があると本気で信じて、できるだけたくさん飲もうとしていた。あのがむしゃらな努力はいったいなんだったのか。

 食後、コーヒーを頂きつつ、横須賀海軍カレーについて教えてもらった。組合があって、ちゃんと審査をしていること。レシピは旧海軍の記録を参考にする必要があり、「横須賀海軍カレー」を名乗っていいのは原則市内。

 ちなみに山崎製パンが横須賀海軍カレーパンを売っているが、ちゃんと組合に加入し、審査も受けているそうだ。また、横須賀市内のCoCo壱番屋3店舗では横須賀海軍カレーが提供されているが、こちらも同様の手続きを踏んでいるという。こんなにもブランドを大切にしているとは、横須賀海軍カレー、なかなか尊い。

 ランチの後は海沿いに移動し、友だちがいつもやっているという釣りに付き合ってみた。太刀魚が有名らしく、たくさんの人が集まっていた。

 釣れたら、夕飯は太刀魚の唐揚げかなぁ。ムニエルにして白ワインをいくのもいいなぁ。そんなことを考えながら、穏やかな海面をぼんやり見ていた。

 それから、2〜3時間は経っただろうか。途中、竿を振らせてもらったり、リールを巻かせてもらったり、隣の人と糸が絡まり謝ってみたりはしたけれど、見事に一匹も釣れなかった。

 友だちは、

「おかしいなぁ。おかしいなぁ」

 と、つぶやいていた。でも、まわりの人たちもまったく釣れていなかったし、たまたまタイミングが悪かったのだろう。

 だんだん空も暗くなってきていた。なにを食べるか話し合う必要があった。ふざけて、

「Uber Eatsでいいんじゃない?」

 と、言ってみたらそこそこウケた。嬉しかった。

 魚にお金を払うのは悔しいから、肉にしようということになった。どぶ板通りに行けば米軍御用達の本格ハンバーガーが食べられるんじゃないかと盛り上がり、わざわざ足を運んでみたが、想像以上に本格的で、怖くて中には入れなかった。映画『トップガン』でトム・クルーズたちがたむろしているバーみたいなお店ばかり。アウェイにもほどがあった。

 結局、入りやすいステーキハウスでサーロインを注文した。

 目玉焼きと野菜炒めが添えられているあたり、めちゃくちゃ日本らしくって、食べたかったものとは違ったけれど、わたしの舌にはマッチしまくり。焼き加減も絶妙なミディアムレアで、なんだかんだ満足だった。

 夜の横須賀を散策していると映画のセットみたいなムーディな通りに出会した。

 いかにも戦後の闇市にルーツがありそうな雰囲気。名前は若松マーケットというらしい。

 お店の一覧を眺めていたら、右下の「横須賀ブラジャーが飲める街」というキャッチコピーが気になった。色っぽいお姉さんが胸の前にグラスをふたつ、ブラジャーみたいに持っている。いかがわしいにもほどがある。

 目の前に謎があったら、確かめずにはいられない。わたしの中の川口浩がウォーミングアップを始めた。

 しかし、飲める街とは言うけれど、見渡す限りスナックばかり。どこもかしこも入りにくくて、右往左往を重ねてしまった。路地を隅々まで探し回って、ようやく居酒屋っぽいお店を見つけた。

 ガラガラッ。扉を開けるとカウンターで常連たちが大盛り上がり、入り込む余地はなさそうだった。でも、お店の方が優しくて、座敷席を広々使っていいですよと言ってくれた。

「お先に飲み物はどうしますか?」

「ブラジャーってありますか?」

「はい。ありますよ。何カップにしますか?」

 いきなり、予想外の質問が飛んできた。しれっと正体を暴くつもりが、ここはひとつ、ご教授願う必要があった。

「すみません、ブラジャーってなんなんですか?」

「あ、横須賀の方じゃないんですね。ブラジャーっていうのはですね……」

 まず、ブランデーをジンジャーエールで割ったものをブラジャーと呼ぶそうだ。ブランデーの量が増えるにつれて、Aカップ、Bカップ、Cカップとサイズアップしていく。このスナック街の伝統的な飲み物なのかと思いきや、発祥は以外にも2011年。町おこしのため、考えられたものなんだとか。ネーミングのインパクトが功を奏し、観光客が訪れるようにもなったらしい。

 知りたいことを知ることができたので、わたしたちは横須賀ブラジャーのAカップをそれぞれ頼んだ。

 芳しいブランデーを専用のジンジャーエールで割って完成。大人な甘さが癖になる一杯だった。アルコールの強さを感じさせない優しさで、つい、飲み過ぎてしまいそう。

 まったりしていたら、店内のBGMがTUBEとサザンを繰り返していることに気がついた。最高に横須賀だった。

 なにからなにまでいい街だなぁと思った。いつか、本格的なハンバーガーも食べてみたいなぁ。




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