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【料理エッセイ】釧路で発祥グルメを堪能してきた!

 友だちに会うため、釧路に行ってきた。

 正直、釧路にこれといったイメージはなかったけれど、行くからには楽しみたい。そして、わたしにとって旅行の楽しみは食事だから、あれこれ、事前に調べてみた。

 期待はしていなかったが、意外にも、興味深いフレーズがどんどん出てきた。なんと釧路は炉端焼き発祥の土地なんだとか。その上、ザンギも発祥というから驚きだ。さらに市場などで好きなお刺身を選ぶ勝手丼も釧路発祥と言うではないか。

 どうやら釧路は発祥グルメの宝庫らしい。

 一応、友だちに会うことが目的ではあるけれど、わたしはすっかり発祥グルメに夢中だった。早速、食べ歩くお店をリストアップし、当日はそれらを次から次へと巡りまくった。

 まずは和商市場。JR釧路駅を出て、徒歩数分のところに位置する好立地。

 ここで食べるは勝手丼。入り口で白米を購入するも、ずらっと並んだカラフルなお刺身を前にどうしていいかわからない。

 すると、お店の人が、

「中トロがオススメだよ」

「クジラもいいよ」

「八角の刺身は東京じゃ食べられないね」

 と、矢継ぎ早にセールスしてくる。すっかり、惑わされているわたしはそのすべてをお願いし、気づけば、2,000円を超す豪華海鮮丼ができあがっていた。

 友だち曰く、観光客用の価格で高いとのことだったけれど、わたしはピシャリ、

「いいんだよ。観光客なんだもん」

 と、反論をかまし、わさび醤油をとろっとかけて、魚介の美しきマリアージュをダダッとかきこんだ。

 ああ、なんて幸せなんだろう。

 そりゃ、地元の人が普段使うお店の方が安いだろう。ただね、わたしの目的は発祥グルメ。ベストの選択をしたいわけではないんだよ!

 呆れられつつも、一応、徹夜で飛行機に乗って釧路までやってきたわたしを否定するほど友だちも野暮じゃない。個人的な趣味に付き合ってくれることになった。ありがたや、ありがたや。

 というわけで、次はこれまた釧路発祥のB級グルメ・スパカツを攻めることにした。熱々の鉄板に乗ったスパゲッティミートソースに豚カツが載ったわんぱくなメニューながら、寒い釧路市民の心を温め60年以上。地元に根付くローカルフードとネットには書いてあった。

 せっかくなら、スパカツも発祥の店で味わいたい。ちょうど、元祖のレストラン泉屋が宿泊予定のドーミインから歩いて1分もかからないところにあったので、荷物を預け、ささっとランチに伺った。

 いかにも老舗な洋食屋さん。早速、期待が高まっていく。ウィキペディアに書いてあるマーケティングコンサルタント藤村正宏によれば、釧路市民は全員、スパカツを食べたことがあると言っても過言ではないらしい。

 ぶっちゃけ、北海道の港町に来て、なぜ豚カツが乗ったミートソーススパゲッティという肉々しいものを食べなくてはいけないんだと葛藤はあった。友だちも、

「美味しいけど、旅行に来て、それを食う?」

 と、訝しげだった。

 わかる。わかるよ、その気持ち。でも、今回、わたしは発祥グルメを味わうと決めているのだ。とめてくれるなおっかさん、背中のいちょうが泣いている。これを食べないわけにいかぬ。

 ってことで、当たり前のようにスパカツを頼んだのだけれど、グツグツ、煮えたちながらやってきた量の多さに驚いた。

 はみ出しとるやないかーい!

 こんなことなら、勝手丼のボリュームを減らしておくべきだった。だが、一口食べるとしっかり美味しく、これならいけると自信がみなぎり、気づけばカロリーをむさぼるように摂取していた。

 なるほど、これはソウルフードになるのも納得。中高生には堪らないはず。そして、その思い出が大人になっても残り続けて、また食べたいと歴史が紡がれてきたのだろう。

 その後はカフェでだらだら喋って過ごした。川沿いに釧路フィッシャーマンズワーフMOOという大きな施設があり、連れられるまま入っていくと植物園みたいな光景が広がっていた。

 緑をかきわけ、かきわけ、進んだ先にオレンジ色のフードトラックを発見。オシャレにオシャレなコーヒーを提供しているEGG cafe。見た目通り、オレンジアロマのブレンドコーヒーがイチオシとのことで、一杯頂く。

 植物に囲まれながら、まったりブレイクタイムを過ごしながらも、わたしの発祥グルメ探しは止まらない。友だちがポロリ、この施設にはお土産屋がずらり並ぶコーナーがあり、そこで「さんまんま」という料理が食べられるよとこぼした瞬間を見逃さなかった。

 じゃあ、それ、食べよう。

 義務であるかのように立ち上がり、コーヒー片手に施設内の探索を始めた。たしかに、奥の方はショッピングセンターになっていて、目当てのお店もしっかりあった。

 釧路は美味しいさんまがとれることで有名らしい。北の方から南下してくる過程で動物性プランクトンを大量に食べられるので、脂がのっているんだとか。そんな美味しいさんまを一匹使って、ご飯と一緒に炭火で焼き上げた「さんまんま」はいかにも極上。

 中に入った大葉が爽やか。後からさんしょうをかけても相性抜群。お腹はパンパンになりながらも、発祥グルメをゲットした喜びに満たされた。

 とはいえ、さすがにそろそろ夕飯のことを考えなくてはいけなかった。3月とはいえ、釧路の外はまだまだ寒いが、腹ごなしに散歩でもしなくては、これ以上、発祥グルメを楽しめそうになかった。

 そして、テクテクやっていると、おあつらえ向きの石碑が現れた。なんと魚河岸の発祥を謳っているのだ。

 魚河岸ってかなり一般的な名詞な気がするけど、本当に発祥なのかなぁと疑問に思う気持ちはともかく、やっぱり、釧路は発祥を名乗るのが好きな街のようだと嬉しくなった。

 釧路の歴史が知りたくなった。片道、歩いて30分はかかる博物館を目指すことにした。友だちは車で行こうと言っていたが、こちらはカロリーを消費しなくてはいけない。文明の利器は頼らなかった。

 もちろん、すぐに後悔した。誰も歩いていない道をひたすら歩き、途中、公園を突っ切った方が近そうと思ってしまったのが運の尽き。どんどん人が歩く場所ではなくなっていった。

 果たして、この先に博物館があるのだろうか。不安になりつつも、一応、看板は立っていたので、信じて進むと異様に厳かなデザインの建物がぬめっと登場。これはもう完全に博物館だった。

 RPGのボスがいるアジトっぽいなぁ。そんなことを考えながら入館してみた。

 一階は釧路の地質や自然に関する資料がまとまっていて、クマや鹿、トドなどの剥製がずらりと並んで圧巻だった。二階は人類の歴史で、縄文時代の土器から始まり、戦後の鉄道の記録に至るまで学ぶことができた。三階はアイヌについて。漫画『ゴールデンカムイ』の野田サトル先生のサインも置いてあった。

 印象的だったのはわたしが歴史の授業で学んでこなかった言葉が当たり前のように使われまくっているところ。例えば、アイヌの山城を意味するチャシだったり、蝦夷地の別名・クスリ場所だったり、霧が立ち込めて光が役に立たない地域で使われた音の灯台・霧笛(むてき)だったり。

 他にも、関東大震災で政府は北海道移住を推進し、初年度の450戸の内211戸が釧路原野に移住したという話は初耳だった。昭和20年7月14・15日に釧路市空襲があり、死者192人、負傷者500人超える被害があったこともわたしは知らなかった。

 歴史学をやっている人たちは地方の記録はネットに上がっていないのはもちろん、全国流通の本にもなっていないから、現地の博物館や図書館、郷土資料館へ行かなくてはいけないと言っていたが、なるほど、こういうことだったのかと合点がいった。

 帰りはバスかタクシーを使うつもりだったけれど、土地に詳しくなったから、ブラタモリよろしく、再び歩くことにした。

 知識が増えると見え方が変わる。さっきまでは寒さと遠さで狭くなっていた視野が一気に広がり、あちこち、気になるものが目についた。電柱に貼ってある住所に「城山」という地名が書いてあるということは、きっと、この辺りにチャシ(山城)があったのだろう。案の定、チャシの遺跡が近くにあった。

 そんな調子でキョロキョロやっていたら、高台にやたら大きな仏教っぽい塔を見つけた。友だちに

「あれはなに?」

 と、聞いてみるも、存在は知っているけど、なんなのかは知らないとのこと。

 よし、行こう。その正体を確かめるべく、坂道を登ることにした。

 結論、それは日本山妙法寺の釧路仏舎利塔というものだった。中村水産株式会社という地元の会社の社長が資材を投げ打ち、横浜国立大学の寺院建築専門教授・大岡實に設計を依頼したんだとか。

 完成は1959年。東西南北にありがたいレリーフが刻まれ、釧路の人々をずっと見守っているのである。

 いやはや、もともと釧路に興味はなかったけれど、こうして現地でいろいろ学ぶと面白い情報がいくつもあって、来てよかったなぁと思えてくる。

 あまり旅行で博物館には行かないけれど、知的好奇心を満たす意味では、まず、行かなきゃいけないところなのかも。ただ、道を歩くだけでも楽しさは倍増する。

 さて、そんなこんなで、脚が痛くなるほど動き回った甲斐もあり、いくばくか胃袋に余裕もできた。この流れで予約していた炉端焼き発祥の店・炉ばたへ向かった。

 軒先に堂々と「炉端焼き発祥の店」と書いてあった。もはや、この潔さに釧路らしさを強く感じる。

 店内は真ん中に焼き場があり、おばあちゃんが一人、火の番人として注文の入った魚をひたすら焼きまくっていた。その様子はある種、宗教的な儀式めいていた。

 ただ、なにより、わたしたちの度肝を抜いたのはメニューに値段が一切書いていないこと。魚や肉、野菜といった焼き物だけでなく、ほうれん草のお浸しといったサイドメニュー、ビールや日本酒、コカコーラに至るまで、いくらなのかさっぱりわからないのだ。

 慌てて、財布の中身を確認した。さすがに2万円あれば足りるよね? 友だちと囁き合うも、お互い、確信が持てず首を傾げた。

 こっそり、スマホで検索した。食べログの予算目安は¥4,000〜4,999となっている。たぶん、なんとかなるだろう。

 それでも、高級そうなキンキを頼むのは怖いので、ししゃもやホッケを注文した。

 味については間違いなし! 外はパリッと、中はジュワッと。理想的な焼き加減でお酒が進んだ。他にも豚肉とか、カレイとか、高そうじゃないものをいろいろお願いした。

「お会計お願いします」

 そう声をかけたとき、内心、かなりビクビクしていた。出てきた金額は1万円ほど。おお、食べログ。お前を信じてよかったよ。

 無論、まだまだ食べ足りてはいなかった。でも、この数軒隣にザンギ発祥の店・鳥松があると調べてあったので、腹八分目ぐらいがちょうどよかった。

 ザンギと言えば、要するに唐揚げなんだと思っていたが、発祥の味は全然違った。

 見た目にはよくわからないけれど、実はこれ、もも肉だけでなく、鳥一羽をぶつ切りにしたものを揚げている。だから、ケンタッキーみたいにいろいろな部位がミックスになっているのだ。

 そして、これをウスターソースをベースに作ったオリジナルのタレにつけて食す。塩気と甘味が渾然一体となり、もう一個、もう一個と無限ループに突入する危険な美味しさ!

 とはいえ、この辺りで満腹も満腹。どうすることもできなくなってしまった。それでも、カフェに移動し、デザートを食べながら友だちとダラダラ喋り、翌日の予定を確認した上、ホテルへ戻った。

 わたしが宿泊していたドーミインでは無料の夜鳴きそばサービスを売りにしている。本当は締めにチュルッと食べたいところだったが、泣く泣く、諦めざるを得なかった。

 それでも、釧路の発祥グルメをこれでもかって堪能できたわけだし、ラーメンぐらい我慢しなくては。

 よしよし。

 だけど、我慢しているとは言え、そもそも食べ過ぎてはいるもんなぁ……。

 ああ……。

 果たして、体重がどれだけ増えてしまったのか……。

 なにより、憂鬱なのはそのことだった。




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