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【料理エッセイ】ジブリ飯より宮崎駿のサッポロ一番塩らーめんが食べたい! マジで!

 ジブリ飯が人気だ。『ルパン三世 カリオストロの城』のミートボールスパゲッティに、『ハウルの動く城』に出てくる厚切りベーコンと目玉焼きに、『天空の城ラピュタ』のドーラハムに……。どれもシズル感たっぷり。言わずもがな、みんな夢中だ。もちろん、わたしも。

スタジオジブリ

 ジブリパークのレストランだったり、居酒屋が非公式で再現したメニューだったりがSNSでよくバズっているし、賛否両論の『君たちはどう生きるか』もジャムパンに関しては美味しそうという点で誰もが手を握り合えるはず。それぐらい、ジブリとご飯は密接な関係にあるわけだ。

 なのに、多くの人が見落としている事実がある。こんだけ美味しそうな料理をアニメーションで描ける宮崎駿監督。その手料理は百パーセント美味しいに決まっているだろってことを!

 灯台下暗し。仁和寺にある法師。映画に出てくるご飯に気を取られ、現状、宮崎駿飯がスルーされている。これは由々しき事態である。というのも、このままじゃ、宮崎駿のレシピが残らなくなってしまうじゃないか!

 そりゃ、たしかにジブリ飯をリアルで食べられるお店があるのはありがたい。でもね、わたしがなによりも食べたいのは宮崎駿が作るサッポロ一番塩らーめん。別名、「貧乏塩ラーメンオーロラ風」なんだってことを誰かに知ってもらいたい。

 このネーミングからして抜群に美味しそうな料理を宮崎駿が作ったのは2001年。当時、『千と千尋の神隠し』の制作も佳境に入り、スタッフ一同、寝る間も惜しんで果敢に作業を続けているときのことだ。夜食を交代交代に作る習慣が自然発生してしばらく経った頃、なんと、宮崎駿監督自身が包丁を握りと言うではないか。

 と、まるでその場にいたかのように語っているけれど、単にテレビでやっていたドキュメンタリー映像を見ただけ。でも、その衝撃と言ったらブラウン管越しとは思えないほどビビッドで、ぶっちゃけ、自分で経験した出来事みたいにハッキリくっきり覚えている。

 さて、そこはアニメスタジオ。キッチンらしいキッチンなんてあるはずはなく、宮崎駿は狭い給湯室で背中を曲げ、流しにはみ出したまな板の上で椎茸を薄切りにしていく。それがよっぽど面倒くさかったのだろう。長ネギに関してはインドの屋台みたいに空中で斜切りに切り飛ばしていく。具材は以上。これらをフライパンでじっくり炒める。なお、どういう風に味付けをしているかは不明だった。

 その横では寸胴みたいな鍋でお湯をたっぷり沸かしている。グラグラっときたところでアシスタントを呼ぶと銀のお盆にこれでもかって並べられた裸になったサッポロ一番塩らーめん。ポンッ、ポンッ、ポンッ。宮崎駿は躊躇なく麺を次から次へと投入していく。やがて、あふれんばかりになったとき、こうつぶやくのだ。

「危機感があふれてきたな」

 わたしはこのセリフがジブリの中で一番好き。日常的にけっこう使っている。なんなら、ジブリのセリフをリアルでこれしか使ったことがないかもしれない。

 なお、結局、宮崎駿は用意していた麺をすべて茹でることができないまま、粉を投入。さらにしんなりとした野菜と卵を優しく加え、サッポロ一番塩らーめんを「貧乏塩ラーメンオーロラ風」へと華麗にアレンジ。鍋ごと、仕事中のスタッフのもとへと運んでいくのである。それを各々、眠気覚ましにコーヒーを飲んでいたのだろうマグカップに取り分け、ちゅるちゅるすすっていくのだが、その幸せな光景と言ったら……。

 宮崎駿のサッポロ一番塩らーめんが食べたいよ! マジで!

 一応、自分なりにそれっぽいものを作ってはみた。毎回、かなり美味しくできはする。でも、宮崎駿が作ったらもっと美味しいんじゃないかと思わないではいられない。

 昨日、宮崎駿がすでに次回作の構想中を始めているというニュースを目にした。

 頼みます。宮崎監督の料理に対するこだわりがふんだんに込められた作品をひとつ、残してください。伊丹十三の『タンポポ』みたいに、半熟のオムレツをパカっと割ったオムライスだったり、チャーシューとネギの細切りをラー油で和えたネギラーメンだったり、日本の料理界を変えてください。

 まあ、『君たちはどう生きるか』にえらく感動し、最後、涙を流しまくったわたしなので、どんな映画でも劇場に足を運ぶつもりですけどね!

 とりあえず、これから、夜食にサッポロ一番塩らーめんを食べようと思います。

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