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【公開記事】スタメン入れ替え方式(特集「連作を考える」)

結社誌「塔」2022年11月号に「連作を考える」という特集が組まれ
その中に「スタメン入れ替え方式」と題した文章を掲載していただきました。
僭越ながら、私なりに当時考えた短歌連作の作り方について書いたものです。
今回は、その記事を以下に公開します。
(文章の終わりに、追記があります)



連作を作るとき、大テーマがないと作りにくいタイプなので、まずテーマを決める。
自分の内面を様々な方面から見つめ、抱えている問題や強く感じている感情を探す。
そうすると、外に表したくない気持ちや、見ないようにしてきた問題に気づく。
触れると厄介だとわかっているもの。
それを掘り下げ、ましてや短歌にするなんてしんどいし、とても孤独な行為だ。
でもその部分にこそ、大事なテーマが眠っているように思う
(それを作品にして発表するかは別の問題だし、他にも様々なアプローチがあるだろうが、
私はそうやって自分の心を整理している面がある)。

テーマを決めたら、とにかく歌を作る。
大変だが、必要数の三倍は作ろうと毎回奮闘する。
また、テーマは設定したが、それに関する歌ばかりだと単調になるし、
読者も息が詰まると思うので、テーマに直接関係のない歌も作る。
一通りやってみて、もう限界!となったら、以下を試して、あがく。
①視覚の歌が多くなるので、聴覚や嗅覚、触覚の歌を作る
②足りない要素(食べもの・色・花など)の歌を作り、言葉のバリエーションを増やす
③辞書を適当に開いて、言葉のヒントを得る

長い連作に挑戦し始めた頃、「もっと気持ちをストレートに表した歌を入れたら?」と言ってもらったことがある。
そう助言されても作り方がわからない。
そこで好きな歌集を見て、感情が出ている歌に付箋を貼り、「感情の出し加減」の参考にしたことを覚えている。

次に、必要数の歌を選んで、仮の連作にする。
これを私は野球になぞらえ「スターティングメンバー決め」と呼んでいる。連作の一番バッターから最終バッターまで、ずらりと並んでいると考えると、
自ずと「張り切ってバットを振り回しているが、見せかけだけでは?」
「他の選手に比べて弱そう」など、控え選手と入れ替えた方がよい歌が見えてくる。

そこでスタメン入れ替えだ。控え選手との交代、打順の並べ替え、といった試行錯誤を重ねる。
必要に応じて新たに作ることも、もちろんある。
これまで目立たなかった選手を一番バッターに抜擢してしっくりきたりすると、俄然嬉しくなる。

構成については、大テーマがあれば、ある程度ストーリーに沿った歌の並べ方がベースとなるだろう。
そこに「テーマに直接関係のない歌」をどう挟むかなど、頭を悩ませるのだが、やっていて楽しい作業でもある。

選手が出揃ったら、誤字脱字の確認などをおこなう。結句に体言止めや動詞の終止形が続きすぎたり、
同じ形容詞や「ような」「ごとく」が多すぎたりすると単調になるため、
そうなっていれば、修正、並べ替えをする。
タイトルは、途中で仮につけることが多いが、それにこだわらずたくさん候補を書き出し、
オリジナリティーがあって印象に残りそうなものを、最後に選ぶようにしている。

以上、僭越ながら私の実践してきた方法を述べた。
あくまで一例で、すでに言及されている内容も多いと思うが、参考になる部分があれば幸いだ。
かく言う私も煮詰まってはベッドに倒れ込みながら作っている。
最近は大テーマのないものや、明るい印象の連作にもトライ中。

最後におすすめの連作を挙げたい。
①「Place to be」(二十八首)川野里子
角川「短歌」平成三十年四月号発表作品
(第五十五回短歌研究賞受賞作)
母の介護から看取りまでを描く。テーマがはっきりしていて、一首一首が非常に強い。
②「青を滲ませ」(二十八首)佐藤モニカ
歌集『白亜紀の風』(2021.9)収録
出産へ向かう日常を優しい視線で綴る。選ぶ言葉で明るいイメージになっている一連。


さて、上記の文章に入りきらなかった話・・・
自分で書いておいてなんですが、必要数の三倍は無理!という場合ももちろん多々あって
その時は、ある程度作ったら、今いるバッター(短歌)の皆さんにスタメンで並んでもらって
あっちよりこっちの方がという見所のありそうなバッターが後から登場したら(作れたら)
時間の許すかぎり随時入れ替える方式を取っています・・・

とは言え、連作の作り方は人それぞれに異なると思いますし、その時々でも違ってくると感じています。
私もこれを書いた時とは変わってきている面もあります。というか常に模索中です・・・

また、実はこのnoteに、特集記事では字数が足りず入りきらなかったことを書いて、先に公開していますが、
このnoteの中でも、とてもよく読んでいただいている記事となっていて、ありがたく思っています。
読んでくださった皆さま、誠にありがとうございます。
今回の文章も何かのお役に立てば幸いです。

※先に公開している記事はこちらです。


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