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怪異蒐集 『呪い(まじない)の始末』

■話者:Aさん、中学生、10代
■記述者:火野水鳥

 Aさんの中学で霊現象が多発した時期があった。

 霊を見る、声を聞く、憑かれる、怪我をするなど現象は多岐に渡り、目撃される霊も、血塗れの子供、赤い目の女、首がない地蔵などバリエーション豊かだった。今までも、どこそこのトイレの個室で子供の霊を見たといった話が流行ったことがある。しかし今回は体験者の数が桁違いだった。普段は幽霊を小馬鹿にしている生徒まで霊を目撃するに至って、「これは本当かもしれない」というざわついた空気が学校を包んだ。怯えて学校を休む生徒も出た。

 Aさんはこの現象の調査に乗り出した。先月まではクロネコ様(※みたま市におけるコックリさんの名称)にハマっていたが、自習中にやる生徒が出たせいでクロネコ様は禁止され、出回っていた降霊用の紙も教師に回収されてしまった。そのせいで暇だったのだ。同じく暇を持て余していたオカルト仲間のMとRとともに、Aさんは体験者への聞き取り調査を始めた。

 その結果、霊現象は教材準備室を中心に起きていることがわかった。そこに近づくほど多くの霊現象が発生している。準備室には過去の学生の制作物など雑多なものが保管されている。要は物置だ。校舎の奥まったところにあり日が当たらないせいで、夕方はすぐに暗くなる。気味の悪い場所だが、それは昔からで、なぜこのタイミングで霊現象が増えたか謎だった。

 Aさんたちは準備室を調査することにしたが、せっかくだからと、夕方暗くなってから向かった。準備室のあるエリアは人の気配がなく、グラウンドからしていた部活の声もいつの間にか聞こえなくなっていた。窓から見える空はのっぺりとした赤で、不気味さに拍車をかけてAさんたちを喜ばせた。   
 準備室がある三階に入ったところで、にゃおん、と猫の鳴く声が聞こえた。この先にあるのは目の前の準備室だけだ。MとRも聞こえたらしく、三人で顔を見合わせた。すると、三人が見ている前でするすると準備室の扉が開き、おかっぱ頭の女の子が顔を出した。女の子は横顔を見せたまま、ゆっくりと首を上下に動かしている。
 予想外の出来事に、Aさんたちは足を止めて女の子を見つめた。すると女の子の頭が支えを失ったように、すとん、と床に落ちて転がった。
 Aさんは叫び声を上げた。同時にMとRも叫んだ。先を争うように階段を駆け下りて、上履きのままグラウンドの真ん中まで逃げた。落ち着いてから先ほどの話をしたが、三人の話はまったく噛み合わなかった。
 Mは紙袋を被った女性が踊りながら近づいてきたと言い、Rは和装の花嫁が出てきて後ろ向きに迫ってきたと言った。Aさんが聞いた猫の声も、Mには鈴の音、Rには女性の笑い声に聞こえていた。意味がわからなかった。三人は話し合い「今日はこのまま帰る」で意見が一致した。

 翌日の昼休み、再び準備室に向かった。昼間のせいか、昨日のような不気味な空気は感じない。教室に入って中を見ていると、ガタッと棚が揺れた。見ると棚の上の段ボールが落ちそうになっている。段ボールを下ろして中を覗くと、ひらがなや数字が書かれた紙がぎっちりと詰まっていた。

 どれもクロネコ様で使う、降霊用の紙だった。

 クロネコ様の禁止に伴い教師に回収されたもののようで、紙には硬貨を擦った跡がある。
「どれも使ったやつっぽいね」というRの言葉に、全員が黙った。使用済みということは一度は霊を呼ぶのに使われたものだ。成功失敗はあるだろうが、そんなものをひとところに集めてよいのだろうか…
 Aさんたちは段ボールを抱えて職員室に行き、話が通じそうな先生に仔細を話した。そしてこのままじゃまずいと思うと伝えた。先生は意図を汲んでくれて、「詳しい人に聞いて処理する」と約束してくれた。

 以来、霊の目撃談はだんだんと少なくなり、一ヶ月も経つと誰も話題にしなくなった。みんなが霊の話題をしていた頃が懐かしく、Aさんは「もう少しあのままにしておいてもよかった」と残念に思ったそうだ。

■メモ
・なんか私らみたいなことやってるな(朱音)
・中学生でこの行動力よ。先が楽しみ(水鳥)
・紙の処分方法って色々あったと思うけど、実際みんなそこまでちゃんと処理しないよね(亜樹)
・48枚に細かくちぎって捨てるとかだっけ。あと最寄りの神社に埋めるとか、川辺で燃やすとか(水鳥)
・私は適当に捨ててたな。あんまり記憶にないから、普通にゴミ箱とか…硬貨も三日以内に使わなければいけないとかあったと思うけど、財布に入れたまま忘れてた(朱音)
・みんなそんな感じだよね。でも処理してないやつをまとめて保管って…そりゃ怪異も起きそう(水鳥)
・クロネコ様に限らず、おまじないに使ったものっていうか願が掛かったもののその後の処理って、割とおざなりなのかもね(亜樹)
・願が掛かったものって?(朱音)
・例えば、切れたミサンガとか、てるてる坊主とか、あと七夕の短冊とか(亜樹)
・なるほど。調べたら個別に処理の方法出てくると思うけど、普段そこまで意識しないよね。用が済んだら忘れてどう処理したか思い出せない(朱音)
・そういうのを適切に処理しますって商売ができるのでは(水鳥)
・需要ありそう(朱音)
・ところでこれ、異界に迷い込む系の話と関係あるかな(亜樹)
・どうして?(朱音)
・夕方日が当たらない場所なのに、窓の外の空が赤いってのが気になった(亜樹)
・これもそうなのか…(水鳥)


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