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居るのはつらいよ(読書感想文)

 引き続き東畑開人さんの本、読了。なぜかと言うと、図書館で借りてきた数冊の内、この2冊だけは「予約している人がいるので延長出来ない」と言われたから。早く読んでしまって、待っている方々にお届けしなくちゃ。

 いや、これはこれは。
著者の方も「この本の体裁は物語とかエッセイに見えるかもしれないけれど、僕はね、これをガクジュツ書のつもりで書いています」と言われているけれど、本当にすごい手法だと思う。
 メインテーマは「ケアとセラピーについて」。この方は多くの学者さんと同じ様に膨大な量の書物を読まれて、たくさんの知識や情報、経験をお持ちだけれど。多くの学者さんの様に自分やちょっと周りの人だけがわかる言葉や表現でふんわり伝えるのではなく、物語の姿をした本を通して私たちに擬似体験させ、心にぐいぐいと迫ってくる。

 一見この方のある数年間の珍道中のお話。登場人物の方々の魅力あふれる描写に微笑みながら、時々顔をしかめながら物語を追っていく内に、読者はいろいろな人の心に触れる。そして言葉だけでは語ることが出来ない複雑な想いを少しずつ想像し理解しようとする様になる。

 著者がガイドになって日々の経験の中で考える場面や、思い違いをしていた、やっぱりこうなんじゃないかと考え直す場面、気が付くとなぜか私たちも一緒に「うーん」と思いを巡らせている。

 そして最後。伏線回収しながらもっともっと深いテーマにぶち当たる。読む前と読んだ後で自分が変わったんじゃないかと思うくらい、最後畳みかける様に語られることが、衝撃的だった。これは本の中であろうと経験しておくべきこと。触れておくべき想い。

 この「生産性」や「意味」ばかりを求められる"今"を生きる私たちが、心を持つ人らしく一人一人を生きること。それを深く考えさせられる本だった。何度も読み返したいけど、予約している方のために一旦返却。

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<心に残ったフレーズ・言葉>(順不動)

●僕らは自立している個人を前提とした社会に生きている。

●そう、人は本当に依存しているとき、自分が依存していることに気付かない。

●デイケアとは人と一緒にいることが難しくなった人たちが「いる」を試みる場所なのだ。

●簡単に言ってしまうと、誰かを助けることが、自分の助けになるということだ。

●メンバーとはコミュニティの一部になることなのだ。一方的にサービスを受けている人はメンバーにはなれない。そういう人は「ユーザー」と呼ばれる。

●構造は人によって生きたものとなる。

●「ただ、いる、だけ」の価値とそれを支えるケアの価値を知っている。僕は実際にそこにいたからだ。

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