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#俳句でぽん:ショート『子猫が見つけたお月さま』

これは5つの俳句から紡がれた3分ショートショートです。


少年が屋上にぽつり座って夜空を見上げています。嬉しそうに鼻を高くあげながら足をぶらぶら揺らして。「なにやってるの?」どこから来たのか、そっと小さな白猫が少年の隣に座りました。「お月見」少年は優しくつぶやきます。白猫は首をかしげました。「目を瞑りながら?」すると少年はくすっと笑って、「目を瞑っても開いていても僕には同じお月様が見えるんだ」くるっと子猫に振り向いた少年の瞳は、朝のお月さまのようでした。

「今日のお月さまはまんまるかい?」
子猫はゆっくりと夜空に目を移します。そこにはちょっぴり欠けたお月さま。「ちょっとほどけた毛糸玉…みたい」すると少年は口を突き出し考えます。「ほどけた…毛糸玉?」ちょっと待っててと一言残し、子猫がすっと何処かへ消えたかと思うと、毛糸玉を転がしながら戻ってきました。少年の手の探る方へころっと転がすと、少年はそれを手に取りながらクスリと笑います。「僕みたいなお月さまか」子猫はまた首をちょこんとかしげます。すると少年の瞳がキラッと光り子猫はハッと気が付きました。

冷たい風が二人の間を吹き抜けて、うっすらと伸びた雲を運びゆっくりとお月さまを隠していきます。それでも少年はじーっと空を見上げながら嬉しそうに足をぶらぶらお月見します。「綺麗だね」月が隠れた空を見つめながら呟く白月の瞳の少年に 子猫はそっと笑いかけ「綺麗だね」そっと隠れた月を想い、ゆっくりと目を閉じました。閉じた瞳の闇の中にやさしい月の姿がぽんわり浮かびます。二人で目を閉じながら鼻をたかぁーくあげると、ふっと仄かな甘い香りがしてきました。「なにかな?」子猫がそういうと、「あっぷるぱい!」と少年が答えます。風を思い切り吸い込むと、林檎の蜜がとろぉーりと瞼の裏のお月さまにかかります。「甘いお月さま…」ぽろっと子猫がそう言うと、「とろとろお月さま」と少年が返し、二人でクスクス笑います。

「お月さまには兎が住んでいるだって」少年が言うと、「ママは蛙だっていってるよ」子猫がそう答えます。少年は今度は眉を寄せて考えます。「もしかすると…カンガルーかもしれないな」ぽろっと零した少年の言葉に子猫は「どうして?」と問いました。「だって跳ねる生き物なんだろう?」言葉にはしなかったけれど、子猫はネズミかもしれないと思いました。「私お月さまに行ってみたいな」その言葉を聞いて少年はにこりと笑って「僕も」と返します。「あまいかな?」「甘いといいね」二人の本当の瞳に映るお月さまが優しく二人を照らしました。

「僕ね…本物のお月さま見たことないんだよ」少しして少年がニカっと笑ってそう言いました。子猫には分かっていた事でした。ふと空を見上げると、薄かった雲がモクっと膨らんでヘンテコな形をしています。まるで…「ピエロが…どこかに隠しちゃったのかしら」子猫の口から漏れた言葉を聞いて少年は声を上げて笑います。「そうかもしれないな」少年の素敵な笑顔を見て子猫はいいます。「でも私も…今夜まで本物のお月さまを見たことなかったよ」少年は驚いた表情で子猫の方を振り向きます。「あそこにあるんじゃないの?」空を指差しながら少年が言うと、首を振って子猫が言います。「違うよ」少年がぐいっと子猫に顔を近づけました。「じゃあ、どこにあるの?」

子猫はそっと柔らかな肉球で少年の瞳に手を置きます。


「ここ」

きょとんとした少年に背を向け子猫は言いました。

「最高のお月見をありがとう」


子猫がふっと闇に消え、少年はもう一度だけ空を仰ぎ目を閉じます。そこには少し欠けた部分にとろぉーり蜜を流し込むカンガルー。ふふっと笑って少年は、作りたてのアップルパイの待つ家の中へと、本物のお月さまを心に帰って行きました。


(おわり)

********

バタバタで、なかなか創作が出来ない私で申し訳ございません。
今回はこちらの五名の素敵なご句達を紡がせていただきました:)

●山本てらさん
「その月も欠けたるところ同じかな」

とても柔らかく、とても優しく…大切な想いをそっと守る様に言葉を運んでくださる山本さん。山本さんの言葉達・ご句達をお菓子に例えるのならば…「落雁」ふふふ。甘くて美しく そしてとても繊細で、崩してしまわないかと そっと手にするあの感覚。三句とも本当に素敵なご句です:)


●Minminさん
「月光るきれいな嘘で乾杯す」

以前の私の#俳句でぽんでも使わせていただいたのですが、今回はMinminさんの綺麗な嘘…優しさの嘘を拝借いたしました:)でも…子猫ちゃんからしたら、本当の嘘だったのかも知れません:)ふふふ。Minminさんのご句達は本当にさらりと風に乗せて流れるような素敵なご句達です。


●Geekさん
「曇天に粗熱取ってあぷるぱい」

Geekさんのご句達は3つで一つの物語…ふふふ。なので、私のこの物語に出てくるアップルパイがどうなるか…知りたい方は是非Geekさんの所で結末を読んでみてください:)Geekさんらしさの詰まったご句達は、本当に私大好きです。雲天…ではなく、ちょっと薄い雲としてしまいましたが、お母さんがきっと窓際であぷるぱいの粗熱をとって冷ましていたから風に香ったんだと思います:)ふふふ。


●井戸乃くらぽーさん
「名前などどうでもよくて月蛙」

見事なご句を届けてくださった方です:)一句目に私も上手いと声を出してしまいました:)今回は月兎と並ぶ月蛙…月に描かれた影を兎にもとれる事も蛙に例える事もあるんです:)カンガルーは…どうかしら?ふふふ。
井戸乃さんのご句達はほほーと皆さん唸ると思います。是非読みに行ってみてください:)


●やどかりさん
「新月やピエロは月を消したまま」

とても斬新で、それでいてふと不思議が起こっているのに、それを追い求めずに ただ眺めていたくなるようなこのご句を今回紡いでみました:)やどかりさんの俳句程にその透明感や真のご句の美しさを届けられないピエロの使い方になってしまいましたが、でも、この発想と視点をどうしてもお届けしたくって…ふふふ。他のご句達もメッセージ性やひねりなど、俳句の楽しみを届けてくださった者です:)是非お伺いしてみてくださいね:)

皆様、素敵なご句を届けてくださり、紡がせてくださり、本当にどうも有り難うございました!!


これを書こうと思っていた時に春野さんのこちらの作品『訪問者』を読んで、うん!やっぱり書こうと意欲を駆り立てられしました:)

目の見えない主人公が謎の訪問者に抱く物…怖さではなくて、どこかで「理解をしよう」とする姿勢が本当に素敵に描かれている作品です!!1分で読み切れるお話が続くこの作品は今も続いているのですが、春野さんの届け方がものすごく繊細でそれでいて真っ直ぐな強さみたいなものが滲み出ている。。。是非お読みください!!私も続き読みたい…ふふふ。


そして、作品紹介第二弾!!!なのですが、ここではリンクだけにして、後日きちんとコメント付きで出させていただきたい!!(すいません、じ、時間切れで…(´;ω;`)ウゥゥ)
本当に素敵に輪を掛けて届けてくださった皆さんの物語…きちんと作品紹介をさせて頂きたいので、後日ちゃんと作品紹介という形で記事を出させていただこうと思います:)その前に、少しでも興味を持ってくださった方がたが見に行けるように:):)


●いつも隣で支えてくれるRiraさん 

●そっとゆらりと心に手を置いてくれる月子さん

●ふんわり風を運んでくれるMinminさん

●どこまでも広がる空は晴天、必ず虹が見えるよヒスイちゃん

●またまたMinminさん(ありがとう!!!涙)

●優しさを手の中で温めて渡してくれるとのむらのりこさん

●またまたRiraさん(だいすきだよRiraさん!)

●短歌の名人、そして歌の名人ツルさん(先生)

●またまたまたRiraさん(私の心の支えです…本当に…涙)

どんなに素晴らしい作品が届いても、私一人では素敵を紡ぎきれない中、こうして皆様が私と同じ方向を向いて、笑顔で沢山の素敵を紡いでくれる…本当に私幸せです!!!心から皆さんにありがとうを贈ります!!!

ありがとう!!!!

後日、ちゃんと紹介させていただきます!!


その他、沢山の方々が第一弾で素敵を紡いでくださっております:)

また全ての#俳句でぽん作品は、こちらに収納させていただいておりますので、皆さま是非読みに来てください:):)



十六夜俳句応募作品を2つ以上組み合わせて紡いでゆくこの企画…
元の十六夜俳句があっての企画です:)皆さま是非俳句ご応募してください:)そして、素敵を私にも紡がせてください:)

十六夜杯は10月25日まで!!!

それと…猫ちゃんがお好きな方必見!!!
ぼんやりさんの小雑誌…「ウミネコ」第一冊目が出まして…ノートでご購入いただけます!!!

ウミネコ雑誌、知らない方はこちらを!!ノートクリエーターさん達の素敵な作品を集め小雑誌にするという本当に素敵なアイディアをぼんやりさんが形にしたんです!!

是非、どんなものかを見に行って、そして小雑誌を手にしてみてください:)


私に俳句を紡がせてくださった皆様、そして#俳句でぽんで紡いでくださった皆様…本当にどうも有り難うございました!!

ps;明日からわたくし家族旅行1週間ほどありまして。。。ちょっと更新遅くなりそうですが…すみましぇん!!!


七田 苗子


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