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勝手に1日1推し 154日目 「インディペンデントの栄光 ユーロスペースから世界へ」

「インディペンデントの栄光 ユーロスペースから世界へ」堀越謙三          ノンフィクション

90年代のミニシアター最盛期。ヨーロッパから中東、アジア、ハリウッド以外のアメリカ、そしてもちろん日本。多種多様なあらゆる映画が上映されてていてめちゃくちゃ勢いがありました!!面白かったなあ、ホント。今はなき、お気に入りだったミニシアターの御名が挙がる度、咽びましたわ。
興奮した!面白かったです!

フランス映画ならシャンテ。インディーなアメリカ映画ならシネヴィヴァン、オシャレだったり奇抜だったりする映画ならライズ、とかあったよな、当時。そんな中、常に何等かの知的な香りが漂った映画をかけていたのがユーロだったなあって思います。アニメイトの上の、ね。場所も最高だった。人が少ないしイイ感じのカフェも多く、春は桜が綺麗で~。あぁ、哀愁。

そんなミニシアター&アート系映画の先駆者であり、業界を背負っていらっしゃった、ユーロスペース代表(?)の堀越謙三氏の軌跡を辿れる本作。
ご自身がまるで映画のような人生を歩んでおられました!
まるで、山師。
回収できる目途もそこそこに3000万円とか余裕で借りたり、契約者相手にはったりかましたり、ですよ!
相次ぐ博打に知恵と努力と人望と、何より豪胆な勇気で対峙し、日本に世界中の映画を招き入れてくれたんですね。斬新な作品をプロデュースしてくれたんですね。
とんでもないわ。額が、額が・・・震える。

留学先のドイツで介護とか旅行会社とか全くの別分野から、縁もゆかりもない映画業界へ舵を切ったっていうんだから不思議なものですね、運命ですかね。

とにかく、映画や映画作りの流れ、映画と社会のつながり、文化(映画)と政治、知識量が半端ない!!その知識に裏打ちされた映画の歩みが本当に興味深いです。
ミニシアターの台頭と共に衰退していった名画座の話とか、世界情勢の変化により(SDGsとか)エッジの効いたアート系映画が衰退し、シネマライズの閉館が決定付けたミニシアターブームの終焉とか、ことの顛末に納得しかありませんでした。
NHKがアジア映画を世界規模に押し上げたっていうエピソードもいいし、フランス映画社に纏わるあれこれも関心しながら読みました。
映画作りの古今東西も、へぇって感じ。かつてスタジオシステムが消え去ったように、最近はプロデューサーがつかないことも多いんだとか。日本の映画の予算の少なさたるや・・・とほほ。
ホント、映画好きにはたまらない裏話の数々で。

今や大御所の監督たちが講師を務めた映画美学校設立当時のエピソードや、藝大の大学院の映画研究学科の立ち上げエピソードなんかも、当たり前なんだけど、映画への思いの上に成り立っているのが良く分かって、愛やん、ってなるんですよ。決して金儲けとかじゃないんだよな。真剣で現実的な後進育成、映画の未来への投資、マジで。何度も言っちゃうけど、本気なんだよなあ。対象と目的を絞ってて、遊びじゃなくて、本当に学びたい人に向けて、実戦込みですぐにでもやっていける人材を育てていて、実際結果も出てて、すげーってなりました。滝口竜介監督とか真利子哲也監督とか大久明子監督とか、そうそうたる面子を輩出、すげーってなりました!

普通にキアロスタミやカラックス、カウリスマキとの交流の記録や当時は無名だった監督の発掘にもミーハー心がうずきます!!懐かしい顔ぶれ~。

引退ギリギリまで「浪曲映画祭」など、回顧的でありながら新しい分野に精力的に取り組み、本当に先見の明と独自の視点をお持ちなんだと感服しちゃいます。脳が柔らかすぎません?!いいなぁって思います!!!

堀越氏なくして、今の日本映画界はなかったですね。巻末に収録のユーロ公開、配給全作品リストとか、圧巻!!
お疲れさまでした。そしてありがとうございました!

どんぴしゃミニシアター世代の方もそうでない方も、映画が好きなら映画館が好きなら、絶対読んで欲しいです!

話は変わりますが、パンフ作りも大変だったんだって~。てか、自ら作ってたんかい?!シナリオ収録、痛み入ります。感謝!
めちゃ趣向を凝らしたオシャレで可愛いものも多かったですよね?!ミニシアターと言えば、オシャレパンフ!
そんなパンフを使った書影も粋ですね。

ということで、推します。

【目次】
まえがき
第1章敗戦の年に生まれて
第2章つらい記憶しかない内ゲバと闘争の学生時代
第3章ドイツ留学時代に欧日協会を友人と立ち上げる
第4章一九七二年、帰国してユーロスペースを設立する
第5章新しい監督、新しい批評も―
第6章ニューヨーク・インディーズの衝撃、そして『スモーク』へ
第7章一生忘れられない『汚れた血』との出会い
第8章ユーロスペース史上最高のヒット作『ゆきゆきて、神軍』
第9章アッバス・キアロスタミとの出会い
第10章アキ・カウリスマキと「わさび物語」
第11章サミュエル・フラー映画祭の大成功、そして李香蘭、ツァイ・ミンリャン
第12章映画製作事始め『アンモナイトのささやきを聞いた』
第13章ドキュメンタリー『書かれた顔』の現場
第14章セールスカンパニと北野武映画
第15章映画美学校を設立する
第16章映画美学校での映画製作
第17章ミニシアターの行方
第18章東京藝大大学院映像研究科を立ち上げる
第19章『ライク・サムワン・イン・ラブ』の顚末
第20章レオス・カラックスの『ポーラX』から『ホーリー・モーターズ』
第21章フランス映画社の倒産とシネマライズ閉館、ミニシアターブームの終焉
第22章アッバス・キアロスタミ追悼
第23章吉武美知子を追悼する
第24章東京藝大大学院映像研究科と映画美学校の現在
第25章映画館主より、席亭と呼ばれたい
第26章カラックスの集大成『アネット』をめぐって
あとがき
ユーロスペース公開・配給作品全リスト

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