マガジンのカバー画像

エクストリーム7年生

37
運営しているクリエイター

2018年8月の記事一覧

エクストリーム7年生 (5)

  第三章・舞台を止めるな (2)

「……”第三演劇部”ですか」
「その通り」
 言うなり額は三土の傍に歩み寄り、A4サイズのチラシを机に置いた。パステルカラーの動物の可愛いイラストが中央に3点、上部には丸みを帯びた文字でタイトルが書いてある。

「どうぶつの里は今日もドッタンバッタン大騒ぎ」

 聞き覚えのある単語に眩暈を覚えつつ、三土はチラシを手に取って眺めた。ここの公演は、以前にも観たこと

もっとみる

エクストリーム7年生 (6)

  第三章・舞台を止めるな (3)

「こらこら」
 不意に先生呼ばわりされ、草石は苦笑するしかなかった。演劇界が注目する新星も、三土にとっては同級生にすぎない。会場待ちの列で手を振りはしゃぐ友人を横目に、草石は会場へと入った。

 8号館の大教室で行われた公演「どうぶつの里 本当の愛はどこにある」が盛況のうちに終幕し、カーテンコールに脚本の草石も登場したとき、事件は起こった。
 最前列の席にいた

もっとみる

エクストリーム7年生 (7)

  第三章・舞台を止めるな (4)

「あの事件で」
 チラシを置いた額は自分の事務机に戻り、話を続けた。
「学園祭は中止になり、“三劇”も解散に追い込まれた。それは落窪君も知っているだろう」
「ええ」
「しかし現役部員や卒業生が復活の道を模索し、昨年からは非公認サークルとして活動を再開した。そして今回、2年ぶりに戻ってきたわけだ」
「そういうことで……」
 聞き終えた三土は、再びチラシに目をやっ

もっとみる

エクストリーム7年生 (8)

  第三章・舞台を止めるな (5)

 三土の視線がチラシに釘付けになったのを見て、額は静かに口を開いた。
「そういうことで」
 額はA4サイズの冊子を手に席を立ち、三土の横に来るなりその本を目の前に置いて言った。
「君の出番だ」

 学園祭当日。第三演劇部の復活公演はSNS上や学内で大々的に宣伝されたものの、往時を遥かに下回る観客数となった。草石の脚本ではないこと、なによりも2年前の事件が記憶に

もっとみる

エクストリーム7年生 (9)

  第三章・舞台を止めるな (6)

 二階浪の予想に反し、舞台は何事もなく進行した。観客の反応も良い。脚本担当として手応えを感じるとともに、原案を残した草石先輩にも思いをはせた。

 物語の中盤、ワンシーンの端役ではあるが二階浪は上手から登場し……事件はそこで起こった。

 サルの着ぐるみをまとった二人組が、銃器を携えて下手から登場した。明らかにおかしい。二階浪はウサギの着ぐるみの中で事態をつか

もっとみる

エクストリーム7年生 (10)

  第三章・舞台を止めるな (7)

 サブマシンガンを構えたまま、サルの着ぐるみは得意気に言った。
「助けを求めたところで、一体誰が……」

「「エクストリイィィィィィィィィィィィィム!!」」

 1000人収容可能の大教室に、あの大音声が響いた。ハッとした二階浪が周囲を見渡すと──教室の上手側を壁沿いに走る影が見えた。その影は教壇脇の階段を駆け上がると、ウサギの着ぐるみを前方宙返りで飛び越して

もっとみる

エクストリーム7年生 (11)

  第三章・舞台を止めるな (8)

「ところで貴様ら、秀央大学風紀委員会の者だと聞いたが?」
 サルの着ぐるみの二人組と対峙したまま、エクストリーム7年生は尋ねた。さっきと違って落ち着いた口調になり、二階浪には心なしか威圧感が増したように聞こえた。
「それがどうした!」
 手前にいるサルが、怒声で返した。エクストリームが次いで発したのは、ただ一言だった。

「……許さん」

 そう言うと、二人組

もっとみる

エクストリーム7年生 (12)

  第三章・舞台を止めるな (9)

 二階浪は、上手側の袖に隠れて様子を窺っていた。観客はいよいよ事態を把握しかねて呆気に取られていたが、それは彼も同じであった。しかしこの常軌を逸した状況にあって、二階浪が一つ確信したことがあった。
 エクストリーム7年生は、強い。

「兄貴ぃ?!」
「なんて奴だ!!」
 銃床から伝わる衝撃を肩で受け止めながら、二人組は撃ち続けた。相手が至近距離にいるので、9m

もっとみる