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エクストリーム7年生

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2018年9月の記事一覧

エクストリーム7年生 (13)

  第三章・舞台を止めるな (10)

 エクストリーム7年生は二人組の胸倉をつかむと、右手と左手で一人ずつ持ち上げ始めた。徐々にではあるが確実に体が上がり、ついには爪先が床から離れた。慌てた二人は突きや蹴りを入れるものの、浮いた状態では満足な打撃を加えられない。やがてエクストリームの拳が自らの顔と同じ高さまで来たとき、二人に尋ねるようにこう言った。

「2年前の学園祭で、草石倍を拉致したのは貴様

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エクストリーム7年生 (14)

  第三章・舞台を止めるな (11)

 エクストリーム7年生が息を吸うのを止めると、大教室は静寂に包まれた。二階浪は袖から必死の思いで駆け出てくると、客席に向かってジェスチャーを始めた。両手を耳に当てて、「耳をふさげ」である。観客は理由を把握しかねていたが徐々に同じ動作をし、二人組も二階浪の動きに気づいて両手を肩口まで持ってきたとき──

「「「エェクストリイイイイイイィィィィィィィィィィィィィ

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エクストリーム7年生 (15)

  第三章・舞台を止めるな (12)

「おい」
 エクストリームは二人組に話しかけたが、返ってきたのは意味のない譫言だった。大音声の影響か、意識が朦朧としているようだった。
「ふうむ……」
「あ、あの」
 二人組を持ち上げたままエクストリームが思案にくれていると、二階浪が声をかけた。
「”助けていただき、ありがとうございました”」
 台本通りの言葉ではあったが、本心から発したものだった。大教室に

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エクストリーム7年生 (16)

  第四章・暗夜 (1)

「どうあれ、舞台は無事に終わったからいいじゃないですか」
「良くないだろう」
 学園祭の喧騒をよそに、3号館9階の哲学研究室で額と三土は前日のことを話していた。額はいつものように仕事用のノートPCで作業をし、三土はいつものように机に突っ伏したまま、顔だけ額のほうに向けていた。
「また警察沙汰になるわ、体調不良を訴える者が出るわ、おまけに……」
 額は手を止めて、続きを言

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エクストリーム7年生(17)

  第四章・暗夜 (2)

「君にこの台本を見せたのは正解だった。一戦交えたあとでもセリフを間違えなかったし、何より幸いだったのは一ヶ月前から例の会話が変更されていなかったことだ」
「そうなんですか」
「さっき二階浪君が来て、話していたよ。エクストリーム7年生と名乗る人物が急に現れたと思ったら、セリフも所作もほぼ台本どおりだったと」
「……おかしいと思わなかったんでしょうか」
「銃口を向けられた一

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エクストリーム7年生(18)

  第四章・暗夜 (3)

 12月中旬のある日、三土は学内の図書館で卒論を執筆していた。いつもなら哲学研究室に夜まで籠るところだが、今日は土曜日なので12時で閉室となった。そのため館内のPCを使っていたが、環境や道具の変化は三土の集中力を削いだ。本論での考察もそろそろ終わろうかという段階にきていたが、納得のゆく文章が書けず三土は懊悩していたのである。
 そうこうするうちに21時の閉館が近づき、や

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エクストリーム7年生(19)

  第四章・暗夜 (4)

 相手の言葉は三土の耳に入らなかった。息をすることさえままならず、横たわって痛みを堪えることしかできずにいたのである。
「っ……っ……はっ……はっ……」
 敷き詰められたレンガの冷たさが頬を伝わってくるのを感じつつ、三土はおもむろに視線を上げた。キャンパス内の灯りに照らされる革靴、チノパン、ベストと襟シャツ。そして、冷たさを併せ持った鋭い眼光。いずれも、三土にとって見慣

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エクストリーム7年生(20)

  第四章・暗夜 (5)

「じゃあ……風紀……委員会……は……」
「私が組織した」
 暮石は言葉を返すと、三土の後ろに回り込んだ。倒れたままでは面倒だと言わんばかりに襟を掴んで状態を起こすと、右腕で首を絞め始めた。
「君や二階浪君や草石もそうだが、留年生は秀央大学のイメージを損ねるゴミに過ぎない。だから私はそういう学生を排除するために風紀委員会を作ったのだよ」
 三土は両手を使って抵抗を試みるが

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エクストリーム7年生(21)

  第四章・暗夜 (6)

「……!!」
 かろうじて呼吸をしていた三土だったが、ついに息ができなくなった。文字通り必死の思いで逃れようとするが、暮石はますます締めつけを強くする。
「聞こえているか、冥土の土産に一つだけ伝えておこう。草石は生きている、ただし私の監視下にあるがな」
「……」
 三土は何の反応もできなかった。同級生の草石を救えなかったこと、暮石が風紀委員会の黒幕であること、そして今ま

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エクストリーム7年生(22)

  第四章・暗夜 (7)

「!」
「うぐあぁっ!!」

 三土は、何か小さい物が飛んでいったのをはっきりと感じた。そしてそれが今度は暮石の左目に直撃したことにもすぐに気づいた。──誰かがいる。三土の周囲には何者の姿も見えなかったが、それはもはや疑いようのない事実であった。

「うう……」
 暮石が地面に横たわりながら、顔を押さえてうめいている。視力を奪われているようだが、すぐに回復するかもしれな

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エクストリーム7年生(23)

  第四章・暗夜 (8)

 見えない影に恐怖を覚えつつ、三土は走った。スポーツバッグの重さで、ヒビの入ったであろう肋骨のあたりがズキズキとした。しかしその痛みにかまっていられないほどに、三土は慌てていた。

 東門を抜けるとすぐに、大学の最寄り駅がある。夜も遅い時間ということで、人影はほとんどない。三土は入場するとすぐにコンコースの奥に位置取り、改札を見張った。誰も来ない。ほどなく電車到着のアナ

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エクストリーム7年生(24)

  第五章・夢うつつ (1)

 三土は夢を見た。荒れた海で小舟ごと揺られていたかと思えば不意に放り出されて溺れ、最後は海底の闇に包まれるというものだった。夢というものは大体すぐに忘れてしまうものだが、なぜか三土はこの一連の流れが頭に残った。

 目が覚めると、見慣れた天井と蛍光灯が視界に入った。三土は自分の部屋にいて、おまけに布団まで掛けてあることにも気づいた。一体どれぐらい眠っていたのか。外か

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エクストリーム7年生(25)

  第五章・夢うつつ (2)

「私ではないよ」
 哲学研究室の事務机で、いつも通り額はノートPCで作業をしていた。学生用のPCでは三土が慌ただしくキーを叩き、少し苛々とした口調で何度も額に問いかけていた。
「他に誰がいるんですか。狙撃したり尾行したり介抱したり、そんな芸当ができるのは額さんだけでしょう」
「だから知らないと言っているだろう」
 業を煮やした額がスマホを手にすると、三土の横に来た。

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エクストリーム7年生(26)

  第五章・夢うつつ (3)

 一月下旬のある日、三土は小田急多摩センター駅で降りた。卒論はどうにか提出し、翌週に延びた演習では発表を無事に終えた。この日は口頭試問ということで、卒論の内容について先生方から面接形式で質問を受けることになっていた。暮石が入院したため指導教授が急遽変更となったが、三土は意に介していなかった。とりあえず書き上げたのだし、念のため冬休みの間も研究を進めておいたから何とか

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