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作品

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吉田恭大(1989〜)の短歌。出したり引っ込めたりします。
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短歌連作「されど雑司ヶ谷」

短歌連作「されど雑司ヶ谷」

この暮れも寒い
都電の車内には老人ばかり目についている

巣鴨のマクドナルドには、
ナゲットに「とりのからあげ」と大きくルビがあるという。

老人は赤いものだと知りながら巣鴨の先をゆく西巣鴨

西巣鴨には劇場がある。
劇場はもともと中学校だった。
その前は墓地だった。

墓地のそばに、もう人のいなくなった古い新興宗教の教会があって、
そこも確かに劇場だった。

乗り換え案内。
一例として、都電を大

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クマのグミ

クマのグミ

特快の終点に河口湖あり、
このまま辿り着く河口湖

(荻窪をこえたあたりで降り出して
 Twitterでは事故のお知らせ)

グミ、グミのクマ、
クマのグミ、クマのグミ、
クマのグミ6種類のフルーツ

特快は雨で遅れて
人身でとまった駅でわたしが降りる

(振替輸送 開け放たれた改札の
 一つ一つが立ち尽くしおり)

制服に合羽を着込んだ駅員と
警察官が働いている

着せられていても乾かされていて

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20代の2年ごとの7首

20代の2年ごとの7首

塔、という短歌結社には高校生のころから、かれこれ10年以上いて(いる、以上のことはあまりしていないのだけれど)、その、塔、という結社では2年に一度、「10代20代特集」というのがあります。塔の若手歌人が7首とエッセイと近影を載せる、最近は随分人が増えましたが、若者の顔見世というか、様々な自意識のありようを伺うことができる、楽しい恒例行事ですね。私は20代でなくなってしまったので今後は参加できません

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球技 2016.7.22-

球技 2016.7.22-

はつなつを遠回りしてたどり着くかつて誰かがみつけた神社

花びらのようなもの舞い散らせればいきものが、ひとびとが集まる

(公園の真ん中の白い山の周りでめいめいがボールを投げている)

19時を過ぎれば暮れてゆく景に、こうもりばかりとびだしてくる


つかまえたよわいくちなわ(送ったら戻ってこなくても良いですか)

**
君がもしすごい傷を負っても君はまだひんしではないから すごいキズぐ

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#今日の仕事は楽しみですか

#今日の仕事は楽しみですか

すこしずつ海からはなれ、平日の
今日の仕事は楽しみですか

改札で鳴くのはペンギンのカード
今日の仕事は楽しみですか 

ワクチンの二回目はいつ打ちますか
今日の仕事は楽しみですか

ポイントでお得に乗れるグリーン車
今日の仕事は楽しみですか

不織布のマスクとウレタンのマスク
今日の仕事は楽しみですか

お台場に横浜に立つガンダムよ
今日の仕事は楽しみですか

知り合いに配達員はおりますか
今日

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歌道と提灯

歌道と提灯

池袋にも寄席がある。二人して暇なので落語家を見に行く

(今日は僕の血液型だけ覚えてください)
言っても僕ら若手ですから、いつまでもジョッキの熱いさくら水産

近況と煙草と風景と実感 やがて僕らはぞおんに入る

二人して二升五合を片付けて長い枕の果てに眠るよ

君がもし何かに当たって死んだなら君を背負って踊りに行こう

眠り起きそして働き時々は、よそう、また夢になるといけない

明烏 濡れて帰ると

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夏の連作を置いておきます

夏の連作を置いておきます

皆様いかがお過ごしですか。わたしは、稼業はいよいよ末期だし、精神もいっぱいいっぱいになってきました。ポンポさんとレヴュースタァライトに救われている。

色々の書き物を整理しました。
未発表原稿は惜しいので既発表原稿を貼っときます。

〇夏の連作。昨年『文學界』に掲載されたもの。
『アーカイブ2020/2008-2018』に収録しています。

〇夏の連作その2。
『天気の子』を観た勢いで編んだ奴。

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「六月が七月を迎えて、あらゆる朝に」

「六月が七月を迎えて、あらゆる朝に」

目がさめて耳で測った体温が(わたしたちには体温がある)

早朝のニュースですこし触れられる夜中の地震 気付かなかった

鈴の音がするのは鈴をつけた猫 見たことはないけどたぶん白

妹と妹の飼うねずみとの間くらいのふかいわかりみ

十二時から二時までの荷物を待って、一時に届いてから部屋を出る

かるがもの池から雛が少しずつ減ってゆく日々、日々の出来事

三桁をこえる見込みのその中にまた含まれてい

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「海上県道223号航路」

「海上県道223号航路」

2020年の暮れ。青春18きっぷで清水まで行く

ながい静岡県を半ばで降りて我々は船旅もできるよ

富士山はよく見えたけれどフェリー「富士」はいなかった。

世に知らぬ三保の松原、乗り場まで行ったけれども来なかった船

「数年に一度の寒波により、洋上は時化の見込みです。」

欠航の、港に船が居なければきっと向こうにいるのでしょうが

飛鳥Ⅱはいた。

飛鳥Ⅱを見るたびに飛鳥のことを思いださない/見

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「六月が七月を迎えて、あらゆる朝に」

「六月が七月を迎えて、あらゆる朝に」

文學界9月号の巻頭表現として連作「六月が七月を迎えて、あらゆる朝に」を寄稿しました。作品について少し言葉を残しておこうと思います。

「巻頭表現」は毎回詩歌と写真やイラストのコラボレーションで作られています。今回、短歌の制作と並行して、編集の長谷川さんに私の作品のイメージから写真家の方を何名かご検討いただき、そのうえで篠田優さんとご一緒することになりました。
掲載する連作と写真が固まった段階で、丁

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おみやげを置いておきます。

おみやげを置いておきます。

残念ながらお盆は帰省できませんでした。さすがに、万が一でも実家が焼かれるような事態は避けなければなりません。
そういえば郷里に帰ることを帰省といいますが、鳥取に帰ることは「帰鳥」と言いますね。島根は「帰島」。本当だよ。

帰省は叶いませんでしたが、昨年末、福岡に行ったときにつくったおみやげを置いておきます。

昨年末、仕事納めをしてから山階基君と(別々に)福岡入りし、ajiroでイベントをさせても

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菜虫化蝶/あなたの

菜虫化蝶/あなたの

春だからゆるされるぺなぺなのシャツ いつも明るい照明写真

もうバスも来ないね 夜のバス停に氷結をあけてるツーリスト

すでに日はかわって土曜 駅前と呼ぶには遠いあなたの部屋で

寝る前のあなたが明日着る服をあなたが選んでいたのよかった

※某紙寄稿の近作4首選『鴻雁北/〇〇〇〇』異稿として作成

乃東枯/うさぎのはなし

乃東枯/うさぎのはなし

六月某日、鳥取、晴れ。

砂浜に波が来るのを待っていた
人の座っていた椅子のあり

石像のうさぎを並べながら聞く、
たすけてもらったうさぎのはなし

国道を逸れて港にゆく道の
後からついてくる集配車

岸壁にわらう魚の絵を描いて
海辺の小学校の卒業

地に足のついたわたしの足もとに
やがて雨蛙がやってくる

初出:フリーペーパー「音信不通」36号
2019年7月20日定有堂書店発行

(NHK

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蛙始鳴/クッキーを焼く

蛙始鳴/クッキーを焼く

君だってなかなか死んでゆかれないから
夜毎に喰えぬクッキーを焼く

三国志、
今なら馬超もらえるって言われて貰ってしまった馬超

大丈夫、
まいばすとかでジェネリックカロリーメイト売ってるんすよ

バンクシーっぽい絵を展示させられる
都の職員のことを思った

(赤羽のおばさんはもういないから)
アントステラの池袋店

人が湧いてるからにはきっと何らかのポケモンも湧いている、
そう

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