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エッセイ

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酒飲み御一行様

去年の秋、 日本に帰国した際に、学生の頃からの友人6人と、道後温泉に一泊旅行をした。 このメンバー全員で旅行するのは、高校の修学旅行以来だからまさに40年ぶり。とはいえ、毎年私の帰国に合わせて、昔からの行きつけの居酒屋でかならず集まっては飲んでいる。 気心が知れている以上に知れている仲間。 一泊旅行を終えて、それがもう数か月前のことになってしまった。 思い返してみると、 なんて軽い、 軽い、感じの旅だったんだろう。 6人で移動していたけれど、何もない広がる空の中、まるで

サハラ砂漠、5日間100キロを歩いてみた⑴

9月ごろだったか、日本人の友人が、11月終わりにサハラ砂漠ツアーをするのに「行かない?」と誘ってくれた。 5日間、合計100キロ、ラクダと一緒に砂漠を歩く旅なんだそう。 「行くよ〜!」 と即答したのは、すぐに頭の中、砂漠を歩く自分の靴が見えたから。 それを実際に見てみたい、と思った。 もともと歩くのが大好きだけど、散歩の域を出ない。 サハラ砂漠。それは、チュニジア、リビア、アルジェリア、モロッコ、西サハラ、モーリタニア、マリ、ニジェール、チャド、スーダンと国々をまたいで

パラレルワールドの現れる場所

それは数年前のことだった。 目鼻立ちの整った、女優にでもなれそうな美しい彼女が、鬼のような表情で、私をののしり、店を出て行った。 理由はこうだ。 店のダイニングで働くスーパーバイザーが辞めることになった。次にそのポジションに着くのは、当然、勤務歴の長い彼女だと、本人は考えていたんだろう。 けれど、私が選んだのは、彼女ではない他の人だった。 彼女は、一人のサーバーとしては、そつなく自分の仕事をこなしていたけれど、まとめ役になるには器ではないと私は感じていた。それまでに

青が呼んでる

夕べから、今朝は1週間もお休みしていたジムに行こうと考えていたのに、 コーヒーを入れて、ふと庭を眺めれば、鮮やかな青が広がっていた。 真っ白な画用紙に、水彩絵の具の青で塗り潰したような。 鬱蒼と立ち並ぶ、ヒョロリとしたユーカリの、色褪せた緑の隙間からも青がこぼれている。 数年まえに、ワインを飲みながら水彩画を描くというクラスがあって、しばらく通っていた。 ワイン・バーがクラスのために解放されていたので、色んなタイプのワインを試すことができた。 飲んでいい気分になっていく

過ぎ去った、いくつものクリスマスにカンパイ

アメリカ人の友人、サラとの2週間の日本旅行の様子を書いています。 サラはもともとマナーを重んじる人だ。 だから、今回、東京観光の案内を引き受けてくれた友人が、神社でのマナー、寿司屋でのマナー、その他もろもろ、私も知らないことを、うんちくも交えて教えてくれたことに、サラは丁寧に耳を傾けていた。 さて、京都の旅館での朝ごはん。 私もサラも、ふだんは朝食は食べないたちだけど、旅館の朝ごはんだけは外せない。 「食は文化」、だものね。 お味噌汁、湯豆腐、卵焼き、鮭や、小鉢、お漬物

初日のカンパイ

アメリカ人の友人との、2週間の日本旅行の様子を書いています。 羽田に到着したのは午後だった。 私の飛行機は1時間近くも遅れたし、サラは私より30分前に着くはずだった。 日本への入国はびっくりするくらい簡単で、あっという間に到着ゲートを出たけど、その時にサラの飛行機も遅れていたことを知ってひと安心。 その20分後には、彼女の変わらない姿を到着ゲートから出てくるのを見つけた。5年ぶりの再会。 おもいっきりハグをした。 喋り出すとキリがない私たちなので、話はこれから2週間、ゆ

謎のおまじない

町の食料品店でばったり会った、子供が幼稚園から中学まで仲良くしていた友達の、お母さん。 子供を通じて出会った関係は、彼らが卒業すれば、それ以上に発展することもなく疎遠になっていた。 彼女は、私より年上で、落ち着いていて、それでいて可愛い人だった。 絵に描いたようような良妻賢母だと、私はいつもうっとりしていた。 子供たちへの接し方や、自然な笑顔、たったそれだけのことが、私の心にさえ、温かいものを残してくれた。 ある日の学校行事で、フードブースが校庭に並んでいた日、私の

2週間。

2週間ぶりの我が家。 な~んにも変わってない。 冷蔵庫の中。 2週間前に、食べた、野菜につけて食べるディップソース、 チップスに添えるサルサ、 お豆腐、 ニンジンやセロリも、たぶん2週間前に買っていたものと同じ。 夫と息子ふたりのこの2週間は、 きっとこの冷蔵庫の中のように、代わりなく、淡々と過ぎていったんだろう。 とても平和に。 穏やかに。 腐ることなく(笑)! 夫が私を待って、作ってくれた野菜たっぷりの、あったかいトマトスープを食べながら、私は今回の時差ボケは何日

夫のいない日の食事

夫が1週間ほど日本に行っている。 その間は、お店からのごはんを持って帰っては息子に食べさせて、っと! ある日、 今夜は、ハンバーガーをテイクアウトして食べようか!? 提案すると、息子もニヤリと賛成する。 主夫である夫がいないので我が家はこんな感じ(笑)。 私自身、食べるものはとてもシンプル。 とりたてて何もない日でも、生野菜と、寒い日にはあったかいお豆腐があれば十分。 生野菜のときには白ワイン、 あったかいお豆腐には熱燗。 そして食後のデザートがあれば、赤ワイン。 私

本当のあなたは

「僕がこの家に戻って来る前までは、この家の全部はこの部屋みたいに、きれいだったの?」 私の部屋に入って来た息子が、そのスペースを見まわして言った。 私は何と言って返せばいいか分からなくて、あいまいに「そうね」と笑って答えた。 「ああ、本当に僕は大変なことをしてしまったね」、 彼が力なく、笑う。 私は、そんな彼の横顔を眺めながら、再び思う。 薬を飲んでいない時と、 飲んでいる時、 どちらが本当の彼なのだろう? 彼は、これまでに、多くの物を破壊した。 私と、夫の部屋

すべてのプロセスを見守る~50代のエイジング

庭のチューリップの球根から、緑の葉が顔を出してきた。 ああ、もうすぐ! まだまだ外は寒いのに、こうして春の訪れを知らせてくれる自然が愛おしい。 バレンタインデーの前日に、お店のためのバラを買いに出かけたとき、見つけたチューリップを、私は庭のが咲くのを待ちきれずに購入して、家に飾った。 チューリップは、花瓶に飾っても、花が開いてゆくだけでなく、茎がしなやかにあちこちへ、向いていくのを見るのも好き。 だんだんと、その美しさが萎えていく頃に、私はそれらを花瓶から抜き取ろうとし

母と、蘭の花

先週、蘭の話を書いたけれど、私は長い間、蘭をさして好きでもなかった。 ちょっとお高くとまりすぎじゃない、貴女? 香りも、うちに閉じ込めて、とっつきにくいじゃない? そもそもいったい、どこからやって来たの? 私は昔から野の花が大好きだった。 自分の日常に、いつのまにかいてくれる花たちが好きだった。 もちろん、お店に飾るには野の花、というわけにはいかない。 お花屋さんでピンときたものを選んで、それを帰ってから、これまたピンときた花瓶に飾る。 私は、お花を習ったことはないけ

新年の抱負を口にするためらい

1週間に一度集まる瞑想グループに入っている。 瞑想グループといっても、私を含めて5人で、集まる時間は、火曜日の3時半からのきっかり1時間。しかも瞑想は30分で、あとは近況報告、エネルギークリアリング、オラクルカードを読んだりと、その時々に合わせて遊んでいる。 そのグループとは何年ものお付き合い。 1時間しかない時間だからこそ、余計なことは話さない。 みんな忙しい合間をぬってその場所に集っているのだから。 言い換えれば、そこまでしてでも、私たちはこの時間を確保したい。 私

元気で長生きの秘訣をどうしても聞いてしまう

ある会で、お隣に座った女性と帰り際に話した。 チャーミングな笑顔、好奇心たっぷりな、くりっとした瞳。 白髪に、ベレー帽を被り、素顔にオレンジのふちの眼鏡が似合っていた。 彼女は、書くことが大好きで、本も何冊か出しているということから私たちは話が弾んでいた。 「50代から60代にかけてはね、自分のこれまでの人生について一度は書いてみるべきよ」 そう、私に伝えてくれた。 そう言う彼女は、70代前半くらい?と思ったら、なんと92歳。 もう、びっくりして、きっとその瞬間、彼女