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第17号(2024年1月12日)ドローンがもたらす軍事組織の構造改革(11月期)

 あけましておめでとうございます。今年は元旦からインパクトの大きな出来事が続き、厳しい状況に置かれている方もいることと存じます。このような形でスタートした2024年ですが、皆様にとっても実りのある一年になりますよう、お祈り申し上げます。
 さて、今号は2023年11月期の話題について紹介いたします。



ウクライナ製新型長距離ドローン「モロク」とは?続々と新兵器の驚異のメカニズム

概要
MILITARNYI が11月17日に発表( 記事本文
原題 "Ukrainian Military to Receive Morok Drones"

要旨
 
モロクと呼ばれるウクライナ国産長距離ドローンが発表された。これはウクライナでドローン開発プロジェクトに寄付を通じて関わっているセルヒー・プリトゥラ氏がSNS上で明らかにしたもので、ドローンの全長は1.5m、翼幅1.5mと、比較的小型である。技術的詳細は不明ながらも、内燃エンジンを搭載しており、長距離攻撃を行う目的があると見られている。

ウクライナの軍事力強化に慈善団体として貢献しているプリトゥラ氏

 注目すべきはその値段だ。以前の長距離ドローンは約400万フリヴニャ(約1640万円)だったのに対して、このドローンは約170万フリヴニャ(約700万円)と半額以下。誘導に関しては、光学装置が搭載されていないことからGPS信号で補正する慣性誘導ではないかと推測されている。さらには、オレクサンドル・カミシン戦略産業大臣は、ウクライナの防衛産業がイランのシャヘド136に似た無人機の量産を開始したと発表した。同大臣の話では、そのドローンは月産数十機ペースで製造されているとのことである。

コメント

 今回のドローンで興味深いのはその機体あたりの値段である。以前のドローンの4割程度の値段で製造できている。コストカットをいかにして実現したかが、気になるところだ。誘導装置の簡素化でコストカットしているのかもしれない。こうしてドローンが安く製造できるようになれば、他の条件が許すとすると、モスクワ等のロシア中枢部への攻撃は増加していくことになるだろう。以前サウジアラビアが、イエメンにいるフーシ派から毎日のように自爆ドローンを撃ち込まれていた。モスクワがそのような状況になる可能性は否定できない。雪時々ドローン。
 (以上NK)

 プリトゥラ氏はウクライナのテレビスターの傍ら事業も手掛ける篤志家だそうで、このような社会的な影響力を強く持った人物が直接戦争を支援するキャンペーンを行い、更に自分の手元でドローンを開発してしまうというのも興味深く感じます。ドローンの規格や製品、そして産業の集約化にはまだ時間が掛かりそうではありますが、外国からの支援は痒いところに手が届きにくいシステムである以上はこのような草の根的な活動は継続されるでしょうし、更により多くの人を巻き込めるような試行錯誤が必要でしょう。
(以上S)

米軍の対中決戦ドローン「レプリケーター」構想とは?

概要
GIEST が11月16日に発表( 記事本文

要旨
 
2023年8月末にアメリカ国防総省は、中国への対抗を目的としたドローン開発イニシアティブ「レプリケーター」構想を発表した。この構想はロシアによるウクライナ侵攻における安価な無人アセットの活躍が影響している。この構想に基づいて、アメリカは今後1年半から2年の間に消耗可能な数千機のドローンを製造、配備する模様である。この構想の詳細は未だに判明しない点も多いが、①要求されるドローンの性能とコスト、②戦場での消耗に耐えうる供給・開発能力の構築といった点が構想上問題となってくると指摘されている。

コメント
 
レプリケーター構想に関する問題点が整理されており、レプリケーター構想は野心的で歓迎すべきものではあるが、注意して今後の推移を見守る必要性を感じさせる。
 ドローンの製造コストの問題はいかに民生品の部品、例えば自作FPVの部品、といったものを活用できるかにかかっているのではないだろうか。この構想のための専用品の部品が増えれば増えるほどコストが高くなり、供給問題も深刻になってくるだろう。
 記事でも紹介されていたドローンに使用するアプリと、それを修正・改善できる能力を有する兵士が必要とされるとの指摘は、現代戦を戦う兵士にはどのような能力が必要とされるのかを考えさせられる。一昔前は言語能力と異文化理解が求められたが、今は動画編集の能力も求められるのではなかろうか。動画編集を通じて世論戦に貢献できるからである。こうして兵士に求める能力は増えていくならそれに応じて教育・訓練も変化させていかなければならない。もしくは兵士の採用を工夫してもいいかもしれない。間違いでもいいからとにかく動いていく必要があるだろう。(以上NK)
 
 要旨の①については、何でもかんでも1種類の機体に盛り込みすぎるのはコストアップに繋がるので避けるべきで、目的に合わせてファミリー化させたドローンを大量生産していくというのが良いのかなと思います。また、②については3Dプリンタ等も出てきていることから、どのような生産システムを整えるのかが重要になってくるでしょう。防衛産業は少量生産が常であるため、大量生産となると別な産業をフィールドにしている企業を参画させる(例えば、ホビー用品の会社とか)のも手ではないかと思います。
 NK氏の最後の「間違いでもいいから~」は、モノに対しては多少は通用しますが、人に関してはなかなか厳しいです。新しく事業立ち上げるぞ→やっぱだめでしたすみません、が私企業よりも簡単なものの、意思決定自体は非常に難しい(即ち、引っ込みがつかない)点は税金を使っている組織と言えば想像がつくでしょうが、かなり大規模(1000~)な人員がこれに振り回されます。システムやドローンの開発能力はたとえ転職しても生きるものですから多少は問題ないかもしれませんが、これが採用難の軍隊(米国も採用難で、基準を引き下げたり規則を緩和したりあの手この手を使っています)となると、既存の兵器の運用への影響も考慮する必要があります。この時代、ビルド&ビルドは財政官庁どころか軍政担当で蹴られます。人の育成が一番時間と金がかかることを踏まえ、バランスと柔軟性を確保した戦略的改革が求められると考えます。(以上S)

余はいかにして対戦車ドローンを捨て、FPVドローンを装備せしか―ウクライナ女性兵士が語る―

概要
Ukraine Resists Russian Genocide... Yeah Again が11月15日投稿(記事本文

要旨
 
ウクライナ軍の対戦車部隊の指揮官であるTetyana Chornovol 中尉はストゥグナ対戦車ミサイルを用いてキエフ防衛戦で活躍した英雄である。そんな彼女がFPVドローンの習得に時間を費やしているようで、その理由は以下のようなものであった。前線に対する対戦車ミサイルの供給が不十分だがFPVの調達は容易である。なぜならFPVドローンは彼女の月給でも4機は購入できる値段な上、友人等からの寄付からでも賄うことができる。しかも軽量。
 一方、対戦車ミサイルはミサイル本体だけでなく、発射機とセットで運用することになるが、その発射機も貴重なため、発射機を守るために危険な目にあうこともある。さらに、対戦車ミサイルは改造できず、長射程化やHE(榴弾)弾頭化といったニーズにすぐ答えることができない。重量も重い。彼女はFPVドローンを未来であり、他に方法はないと述べた。

コメント
 
FPVドローンと対戦車ミサイルをどちらも運用したことがある彼女のコメントは貴重だ。そして何よりこうした経験談が(寄付の呼びかけのためでもあるが)戦争中にSNSで見ることができる現状は現代戦を象徴している。
 FPVドローンによって対戦車ミサイルが全て取って代わられるとは思わない。が、彼女の指摘している調達の容易さ、改造ができる点といったところはFPVドローンの強みでもあり、戦闘におけるFPVドローンの価値をさらにあげていくことになるだろう。特に改造が容易であることが優れている点だ。ただしこの強みを生かすためには、軍隊内でドローンを気軽に自作・改造できる環境、もしくは個人レベルでもそうした自作ドローン自体に簡単にアクセスできる環境が必要である。
 対戦車ミサイルのミサイル本体だけでなく、発射機も貴重でそれを守るために危険を冒しているという話は興味深い。確かにランチャー自体を破壊されるのは痛い。しかしFPVドローンであれば、個人で携行するゴーグルやコントローラーは(現時点では)民生品であり、お金さえ払えば市場から容易に調達可能である。したがって戦場での破棄、破壊を比較的ためらうことなく行うことができる。逆説的に言えば、FPVドローンを導入する際は周辺機器も含め、専用品を使うのではなくいかに市場で入手できるものを使うかということになるのだろう。
 余談だが、最近ゲーミングPCにはまっておりBTO品だけでなく、自作PCを作ってみたいと思っている。自作PCを作るのと自作FPVドローン、作るのはどちらが簡単なのだろうか。(以上NK)

 …まあ作るだけならパーツとソフトウェア揃えれば何とかなる(力学的考慮が不要な)PCの方がいいでしょうね…着手出来たらいいですね(笑)
 冗談はさておき、実際に戦場でアセットを運用する軍人の意見は貴重です。人間だけで戦うのは現代の戦争ではほぼ無理な状況で、FPVドローンの存在は物資不足のウクライナにとってかなり大きな価値を占めることがよく分かります。勿論沢山ミサイルがあればそれに越したことはないと思いますが、彼女の歯がゆさを埋めるドローンがあって良かったです。また、例えばジャベリンは発射機と本体で20kg以上にもなる一方で、FPVドローンはご存じの通り軽量ですから、女性兵士でもハンデを意識せずに戦うことができます。日本人は小柄であるため、軽快性は部隊行動にもアドバンテージとなるでしょう。
 他方で、度々部谷らが申し上げている所ですがこの戦争は「量」と「個人の能力」が非常に重要なポイントになっていることを象徴する記事でもあると思いました。ドローンや弾薬が尽きれば広大なウクライナの戦場で戦うことは困難ですし、高度にネットワーク化された戦場は一人ひとりの役割が大きく、戦力にならなければ戦線が崩壊します。彼女のように新しい技術に早期に適応することが求められる状況は遠からずどの国にも訪れる可能性があります。様々な人々の営みを巻き込んで、軍事はパラダイムシフトともいえるタイミングに差し掛かっているのかもしれません。(以上S)

ウクライナ戦争に見る軍事組織の構造改革ー有人、静止、集中よりも、無人、機動、分散の時代へー

概要
The Center for European Policy Analysis が11月8日に発表( 記事本文
原題 "Economy, Autonomy, and Rethinking the Military"

要旨
 
ロシアによるウクライナ侵攻では、ウクライナは少子化からくる軍事的労働力の不足に苦しんでいる。この問題に対してウクライナはドローンといった無人アセットや精密誘導兵器を立ち向かおうとしている。米国はこうした取り組みを模倣し、安価なドローンを大量配備する計画であるレプリケーター計画やスマート砲弾の増産を目指している。
 軍需産業の再編成が求められる中、高価で労働集約的な既存のシステムの調達は減らす必要があり、目指すべきこれからの軍隊組織では有人、静止、集中よりも無人、機動、分散といった要素が重要視される。同時に組織構造もより平坦な組織構造なものが求められ、指揮系統の整理も求められる。現代戦の技術的厳しさにより、技術に精通する人材登用が求められてくるだろう。

コメント
 
ウクライナは少子高齢化による軍事的労働力の不足を無人化で相殺しようとしていると指摘しているが、少子高齢化に悩まされているのはウクライナだけではない。日本や欧米各国、そして中国もだ。今、世界各国で進む無人化の波はそうした背景もあるのだろう。
 記事では、米軍もそうした無人化の流れに対応しつつあるが以前として有人艦船や有人機といった高価で労働集約的なレガシーアセットで戦おうとしていることも指摘されている。平時における軍事改革は遅々として進まないものではあるが、少しずつでも進めて有事に花開く準備は進めるべきだ。(以上NK)

 この問題は既に日本でも起きていると思います。日本は技術力を持った職人が次々に引退していくだけでなく、下支えしてきた企業ごと撤退したり事業を畳まれたりされているため、その組織が蓄積してきた知識がごっそり抜けてしまうことが、防衛に限らず様々な分野で起こっているというのが現状だと言えるでしょう。中小企業を集約してこなかった日本の産業政策の限界も…という感じですが、世界的に見れば、産業構造がシフトしている中で、軍事だけが今までと同じではいけませんよね、という解釈が良いのではないかと考えます。
 人材不足が危機的状況となっている一方、技術の進歩はそれを補う以上の可能性を秘めています。急激なシフトは難しいですし、人員集約型の兵器が戦闘の重要な要素である事実は今後も変わらないとは思いますが、人がいない、入らないことを前提とした中で今まで以上の能力を発揮することを前提とした投資と技術開発が求められるでしょう。(以上S)

ロシア製自爆ドローン生産に貢献する「西側」の部品

概要
SWI swissinfo.ch が11月15日に発表( 記事本文

要旨
 
西側諸国は経済制裁によって、ロシア製兵器の増産に自国製部品が活用されることを防ごうとしている。しかしロシア製自爆ドローン「ランセット」には未だに、西側制の部品が利用されている。記事によると、今年6月にウクライナに着弾したランセットからは19種類の外国製電子部品が搭載されており、一部の部品は2023年度に生産されたものだった。
 こうした部品メーカーには日本も含まれ、それ以外には米国、ポーランドといった西側諸国も含まれている。ランセットに使用されているチップは、電動バイク等の消費財や建設機械に使われているものだ。こうした製品からパーツを取り出して二次流通させることは容易なことだ。
 さらに、ロシアはこうした部品を違法ネットワーク、仲介業者、実態のないペーパーカンパニーといった様々な裏の手段を駆使して調達している。カザフスタンやキルギスといった旧ソ連構成国の代理店を中継し、様々な国にある企業を経由することで制裁の網から逃れようとしている。こうして闇のネットワークを通じて入手されたランセットはウクライナ戦線で活躍しており、ウクライナの砲兵システムが狙われている。

コメント
 
ロシアがいかにしてドローンに使用する部品を入手しているかについてまとめられた良記事だ。記事でも触れられているように、ロシアの部品入手を完璧に阻止できてはいないものの、こうした裏ルートを使って部品を入手しなければならない状況になっている以上、ロシアにとって部品調達のコストが上昇していることは疑いない。その意味では経済制裁の意味はある。
 戦前よりロシアは経済制裁を行われていたとはいえ、このようなルートをロシアが、戦争開始後から構築したとは思えない。何かしらマネーロンダリングに使ったネットワークを軍事転用しているのではないかという疑念が浮かぶ。(以上NK)

ウクライナの戦後も見据えたドローン開発・生産戦略:DIU-Brave1 ワルシャワ会議報告

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