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読書と実家とストレスと

 【凍土の密約】(今野敏 )を年末に読了し、新年初めに【リヴィエラを撃て】(髙村薫)を読んでいる。読んでいる本の系統を見て「あぁ、ストレスがたまっているんだなぁ」と知って驚いている。自分自身、そんなつもりはなかったのだけど。

 【凍土の密約】は外事警察とロシアの諜報員が第二次世界大戦後の北海道をめぐる密約文章を探す話しで、【リヴィエラを撃て】は北アイルランドの元IRAテロリストがCIAと関わりを持ち国際社会の闇に晒されていく話しだ。硬派で歴史や国際社会への興味を掻き立ててくれるミステリーである。

 そもそもIRA って何?北アイルランドとイングランドの関係って?そこからネットで調べて、ざっくりとした世界を垣間見る。歴史の授業では試験問題しか目に映らなかったものが、小説の中で登場人物に感情移入していくうちに歴史を知ることに繋がる。そういう楽しみ方を見つけてしまった。

 残虐な描写のシーンは少なく、ただ淡々と人が暗殺され、組織の中で葬られてゆく。同じミステリーでも【ストロベリーナイト】(誉田哲也)では残虐な描写が多く、読んでいて気分が悪くなった。警察小説は好きだけれども、猟奇殺人の話は私には合わない、ただそれだけの事。

 知人の家族が介護施設に勤めているが、そこでコロナが発症した。階が違うので感染の心配はないが、階をまたいでの応援や支援が無く(いつもそうやって回していた)職員も数人休まざるを得ない状況の中で、朝の食事介助から夜の食事介助、勿論片付けまでを職員一人でやっているという。その間にオムツ交換やその他入居者のお世話もある。食事は一人で食べれない方がほぼほぼらしく、一日中、休む間もなく動いているそうだ。

 私の職場でも、じわじわと包囲網が狭まって来ている。もし、病院内でコロナ患者が出た場合、一つの病棟をコロナ専門病棟とすることが決定した。「もし、そうなった場合、誰かコロナ病棟で働けますか?」師長がミーティングでおもむろに問う。皆顔を下げ、限りない沈黙が場を支配する。

 「子育て中や高齢の家族と暮らしている方は除外します」…そこだけ当てはめると、私は除外どころかコロナ病棟当該者じゃないか。でも、高齢な両親を週二回は世話をしに行っているのだ。ひとりっ子の私が行かないと、月一回の薬をもらいに行くことも出来ない。毎日来てくれるヘルパーさんも、もしかしたら来なくなるかも知れない。濃厚接触者の家族として。

 休み時間、そういうことを軽く上司に話すと「なかなか介護認定は上がらないからね」そう言われた。「いえ、母は要介護3に認定されています。車椅子が必要ですが、両親どちらかが亡くなるまで、自宅で過ごせるようしているんです」上司は「ああそうなの」そう言って苦笑いした。介護度が上がれば施設に入所出来る。入れなくて残念ね、そう言われている様に感じた。

 今日も雪がちらついている。両親をお風呂に入れに行ったけれど、寒いから嫌だとのこと。母は寒いを連発し、まるで、私が寒波をつれてきたように文句を繰り返す。あぁ、感情を司る前頭葉が萎縮して来ているんだな、認知機能がだんだん衰えて来た証拠なんだ、いや、母は昔からそういう人だった、そう思い直す。どちらにしても、良い兆候ではないのだけれど。

 曖昧にぼかされた日常が、思いの外ストレスに晒されていると気付いてよかった。知らぬ間にアウトバーン、精神を侵される前にひと息つく選択が出来たのだから。だから日常を逃げる。本の中に逃げる。小説の中の主人公の過酷な日常に身を任せ、今の私はまだ良い方だ、そう思うんだ。

 読む本の種類によって、今の精神状況がわかる。私はまだ、恋愛小説は読めない。早く、前から話題になっている【マチネの終わりに】(平野啓一郎)あたりを読み、感傷に浸る日々が来ることを願ってる。

 

 


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