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ぼやける距離

近すぎると見えないから、と彼女は離れて行った。
一歩、三歩、十歩、ゆっくりと後ずさっては僕との距離を広げていく。
降り落ちる花びらが遮って視線はもう交わらない。

「本当は、」

生温い風が声と春を攫ってく。
ぼやけた輪郭から目を逸らして、真っ白な明日を見上げた。
春はもう見えなくなっていた。

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土曜日の電球様企画『霞む視界』。

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