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財布の中には生活がある / 藤沢あかり『レシート探訪』

 「他人の生活を知ることができる」と言われたら、どうする。たとえ「知りたい」という気持ちがあったとしても、それを誰かに言ったり行動に移すのには抵抗があるだろう。人に隠れて、ひっそりと他人の生活を知ることができたらいいのに。その願いは、「レシート」という紙切れを通して叶ってしまう。

レシート探訪 1枚にみる小さな生活史 / 藤沢あかり

 この社会にありふれているレシート。あなたの財布の中にも、きっとあるだろう。この1枚の紙切れを紐解いていくと、その人の生活や人生が見えてくる。インタビューを通して26名の生活の断片を集めた1冊、それがこの本『レシート探訪』である。

 例えば、60歳を過ぎた会社員の男性。「コンビニでスポーツドリンクを買ったレシート」が3枚も出てきた。このレシートから、彼のどのような生活が想像できるだろうか。
 スポーツドリンクを買うということは、何か運動をしているのかもしれない。3枚もレシートがあるから、定期的に運動しているのだろう。何のスポーツをしているのかなあ。どうして始めたのだろう。いつから。何のために。想像は尽きない。
 この本の中では、その答えが本人の口から語られる。そして、その答えから派生して、その人物の考えの変化や人生までもが垣間見えることになる。

 また、この本に掲載されているインタビューは、すべてが2020年の5月以降に取材されたものである。2020年の5月。この頃に何があったか、私たちの記憶にも新しいだろう。「コロナ禍」を経て、生活はどう変化し、どのように続いていったのか。読んでいるうちに、同じ時代を生きている人間として、少し力がもらえた気がした。

 生活を切り取ったような写真とやわらかな語り口で描かれる、レシートと生活。ぜひ、あなたも覗いてみてほしい。
 この本を読んだあと、自分の持つレシートを探してみた。見つかったのは、今日この本を書店で買ったレシートだけである。「まだ記憶に新しすぎるなあ」と思ったが、このレシートもいつか、私を取り巻く物語の断片になるのかもしれない。あなたのレシートにもきっと、あなたの生活が隠れている。

◯今日読んだ本
『レシート探訪 1枚にみる小さな生活史』
藤沢あかり 技術評論社

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読んでくださりありがとうございました🌷