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絵画への招待

 気の迷いかなんなのかどうかわからないが、私はいつの間にかとあるギャラリーの中に入っていた。私は元々絵などには興味のない人間だからなぜギャラリーに入ったのか自分でもわからなかった。私はハッと我に返りすぐに外へ出ようとしたが、しかしどうせ入ったのだから絵ぐらい見てもバチは起こるまいと思い直してギャラリーに展示されている絵を観て回る事にした。

 ギャラリーに展示されているのは全て須藤歌亜という画家の絵だった。私はこの画家を知らないがきっと有名な画家なんだろう。ギャラリーの入り口にあった立て看板には現代の超現実主義者と書かれていた。展示作品はその称号通りなんだかひどく歪んだ絵ばかりであり、『欲望』という作品など血走った目がドアップがキャンバスいっぱいに描かれ、その目の瞳孔には部屋に佇む物憂げな女性の姿が映っていた。しかしアートにまるでちんぷんかんぷんの私にはこの画家の絵は何一つわからなかった。だからすぐに絵を観て回るのに飽きてしまってもう帰りたくなった。だからUターンしてギャラリーから出ようとしたのだが、その時奥の方に展示されている絵が一瞬光ったように見えて思わず足を止めた。

 私はその奥の絵を見たくなって絵の方に近づいた。その時一瞬だが絵の中を女性が横切ったような気がした。私はきっとこれは人のいる位置によって観る絵が変わる絵だと思い興味を惹かれて絵の前に立った。しかし絵はまるで普通の1LDKの部屋が描かれており私が移動しても絵はそのまんまだった。私は先程見た明かりや女性は幻覚だったのかとがっかりした。

 私はもう時間の無駄だど判断して再びUターンしてギャラリーから出ようとしたが、その時絵から突然声が聞こえた。振り返って見るとそこにいつの間にか一人の女性がいるではないか。これは先程一瞬見た女性に違いない。一体この絵はどういう仕掛けになっているのか。絵の中の女性は部屋の中でゴロゴロ転がりながらスマホなんかをいぢりながら「寂しいなぁ」とか切ない声でつぶやいていた。私は思わず絵の中の女性に声をかけようとキャンバスに手を近づけたが、驚いたことに手は空を切った。いやこれはキャンバスではなくて実際の女性の部屋なのか?私は今ギャラリーにいるはず。ここに展示されているのは全て絵画のはず。この絵だって額縁で飾られた絵ではないか。いやこれはシュールレアリスト須藤歌亜のヴァーチャル芸術作品なのか?この部屋も女性も全てヴァーチャル。なるほどこれは面白い。私は勇気を出して絵の中に入った。しかしそうした瞬間にギャラリーは突然消えてしまった。私はギャラリーはどこだと部屋の中を見回した。したら壁にギャラリーらしきものが書かれた絵が見えるではないか。私はどういうことかと混乱して部屋中を歩き回った。その時部屋の中にいた女性が突然私に向かって怒鳴ってきた。

「アンタ人の家にどうやって入ってきたのよ!泥棒でもしにきたの⁉︎」

 私はこの女性の言葉に真から驚愕した。

「えっ、君は絵だろう。どうして絵の君に僕が泥棒扱いされなきゃいけないんだ?」

「何わけのわからないこと言ってるんだ!いきなり人の部屋に入り込んでよくそんな堂々とした態度とれるわね!わかった!あなたストーカーね!最近いつも誰かが私を見てるんじゃないかって警察に相談しようって考えてたら!お前だったのか!待ってろよ!今から電話で警察呼んでやるから!」

「おい、いくらヴァーチャルアートだからって君やりすぎだろう。人を揶揄うのもいい加減にしろよ!」

「何がヴァーチャルアートだ!このストーカーめ!いつまでも人に妄想抱きやがって!お前を徹底的に懲らしめてやる!」

 それからしばらくして私は部屋で警察に手錠を嵌められた。しかし私はそれでもまだ自分がヴァーチャルアートの中にいるものだと信じていた。だが外の風景を見た瞬間私は自分がいつの間にか見知らぬ場所に飛ばされている事を知った。私はパトカーに連れて行かれる最中ずっとこれは夢だ。きっと夢に違いないとキツく目を閉じて寝ようとしたが、警官はその度に寝るんじゃねえと警棒で私を叩き起こした。夢にもできぬこの現実の中私は心の中で叫んだ。

「現実よ夢から覚めてくれぇ!」

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