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手紙遊び 【#シロクマ文芸部 】

透明な手紙の香り。

それは少し甘くて優しい花の香り。
君と僕の思い出の香り。

さっちゃんはいつも僕の目の前ですらすらと透明な手紙を読み上げる。
まーくんはかっこいいね、優しいね、とか。
手紙の内容は時々変わる。
お菓子をくれてありがとう、とか
一緒に遊んでくれてありがとう、とか。

さっちゃんが読んでくれる手紙はいつも透明だった。
僕はさっちゃんのそのいつもの「手紙遊び」につきあう。

透明な手紙を読みあげた後は必ず僕にそれをくれた。
僕が手を出すと「はい」と言って渡してくれる。
なんで透明なのかはさっぱり意味がわからなかったけれど
それでも手紙をもらえるというのはとても嬉しかった。
まぁ僕にはその透明な手紙とやらは全く見えないのだけれど。

そういえば前に僕が「手紙なんてないよ」って言ったらさっちゃんは
「まーくんには見えないかもしれないけど」といいながら
ポケットから手紙を取り出す仕草をして僕に差し出した。
そして「ここにちゃんとあるのよ」と言った。
僕は凝視する。あるような、ないような…
うーん、わからない!

さっちゃんは読んだ後は必ず、透明な封筒に手紙をしまう仕草をして
その手紙を毎回僕にプレゼントしてくれた。

僕にこの手紙が見えたらなぁ。
何度も読み返すのに。

たまに僕がこの見えない透明な手紙を差し出す仕草をすると
さっちゃんは「あぁ、あの時のね」と言って「昔の手紙」を読んでくれる。
前に手紙で聞いた言葉をまた言ってくれるのだ。

優しいさっちゃん。

あぁ。僕にこの透明な手紙が見えたなら。
何度だって読み返すのに。


それから少しして、さっちゃんは遠くへ引っ越してしまった。


さっちゃんはもういない。
僕に透明な手紙を読んでくれる人はもういないのだ。
まだまだ読んでほしかったのに。
さっちゃんともっと遊びたかったのに。
読み返したくても透明の手紙は
僕には見えない。

「目に見えないと忘れちゃうよ、さっちゃん…」

とぼとぼと歩く僕に向かってびゅうっと風が吹いた。
その瞬間、懐かしい香りがした。

これはいつもさっちゃんと遊んでいた時の香り。
裏山に咲く花の香りだ。
僕はいつもこの香りの中で透明な手紙を読んでもらっていた。

透明な手紙の香り。

僕はさっちゃんの言葉を思い出す。
かっこいい、優しい、ありがとう…
それからそれから…

さっちゃん。

あの時たしかに「透明な手紙」はあったんだね。
さっちゃんは沢山手紙をくれたのに
僕、全然見えなくてごめん。

さっちゃんがくれた透明な手紙を
僕は未だに見ることができていない。
でもね、香りならわかるよ。透明な手紙の香り。
目に見えなくてもこの香りが手紙の存在を示してくれる。
さっちゃんが僕にくれた沢山の言葉
この香りが思い出させてくれたよ。

さっちゃん、本当にありがとう。


その時の僕は
花の香りに包まれながら
僕宛の透明な手紙を
もう一度君に
読んでほしいと思ったんだ


【おしまい】

***


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ではまた。


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