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【小説】みだれ髪〜棗絢音〜

…香油を使って、洗い髪に香りを纏わせ結い上げる。

化粧をして、あなたに捧げる唇には、赤い紅を滑らせる。

最後に香水を身体に纏わせて、あなたに見合う乙女になる。

「綺麗や…乱すん惜しいわ…」


…嘘ばっか。

綺麗に着付けた浴衣も髪も、あっという間に解いて乱され、唇を重ねて紅を剥ぎ取られる。

汗の匂いが香水の匂いを掻き消し、あなたを想う乙女から、あなたを求める女になる。

「…挿れるで…」

「うん…」

…そうして一つになって、益々乱され、結い上げた髪は、いつしか滝のように布団に流れて、散りばめられて、私に纏う。

その髪を一房掬って、あなたは口付ける。

「綺麗や…どんな衣装より、よう似合うとる…せやけど…」

クッと、繋がったまま抱き上げられ、纏っていた髪が布団に流れて行く。

「せやけど、この姿見せるんは、見れるんは、俺だけや…」

そうして激しく突き上げられ、朝日が昇るまで、責められ、乱され、翻弄され、目覚めた頃にはあなたは居なくて、浴衣を着て階下に降りて鏡台を見る。

「ひどい顔…」

化粧は崩れ、紅は落ち、髪の毛は乱れてぐしゃぐしゃ。

身体中…至る所にキスマークが付いてて、これが消えるまで何処にも行けないじゃないと溜め息を溢したけど、この姿はあなたに愛された証なのだと思うと嬉しくて、幸せで…

緩む顔にクレンジングシートを滑らせて、鏡台に乗った櫛を手に取り、いつもの私に戻って、昨夜の愛の証が残るシーツを洗濯機へと入れて、春の匂い漂う物干し場に干していると、そっとスマホのメールが鳴る。

−起きたか?ワシの可愛いお姫(ひい)さん?−

クスリと笑って、メールを返す。

−おはよう。ごめんね。見送りできないで。−

そうしたら、またメールが来る。

−かまへん。可愛い寝姿見れたから。せやけど、お陰でムラムラしっぱなしや。…今夜も、離さへんからな?覚悟せえよ。−

「イヤだもう…困った人…」

それでも、求められること、愛されてる事が嬉しくて、嬉しくて、分かったわとメールを返して、遅い朝食の支度に取り掛かった…


−お前に見しょうと結いたる髪を 夜中に乱すもまたお前−

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