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ある新卒銀行員の話 - 世界は時にせまくて、あたたかい


日中は晴れの予報だったのに見事に裏切られ、少し粒の大きい雨がグレーのワンピースにぼとぼと落ちるのを感じながら街へ出かけた。

留学先の銀行を解約するときに下したお金を円に両替するために銀行へ行く。


外貨両替を担当してくれたのは、優しくて穏やかな笑顔のお兄さん。


こちらの書類に住所と、日付の記入をお願いします


淡々と作業が進み、記入した書類を持って窓口の向こう側へ消えていった。


数分後


お待たせしました

お兄さんは両替したお金を渡してくれながら、「地元、近いんですね」と話しかけてきた。
聞くと電車の駅は一駅しか変わらない。

さらに話していくと、お兄さんと私は同い年、共通の知り合いが何人もいることがわかった。

「○○くん、知ってますか?一緒に高校時代部活をやってたんです」
「○○くんは◯◯に就職しましたよ」


話していくほどに懐かしい記憶がよみがえり、二人とも笑顔がこぼれる。

共通の友達は皆、元気にやっているそうだ。


今日、銀行へ出かけたこと
今日、お兄さんが窓口の担当だったこと
同じ地元
共通の知り合い


「仕事をする人」と「客」という表面上愛想よく取り繕った、決してプライベートに踏み込むことのないコンクリートの壁が一気に崩れた。


学生時代に戻ったかのような遠くて懐かしい、確かに存在していた過去の思い出を共有することはこんなにもあったかいのか



世界は広い。

サイズ、人口、宗教、食生活…


でも、広さだけに向いていた目をふと近くにすると、そこにはずっと変わらぬ、帰る場所があった。


また、お会いできたらいいですね。いつでも来てください



お兄さんはそう言ってあの穏やかな笑顔で見送ってくれた。


頂いたお礼は知識と経験を得て世界を知るために使わせていただきます。